(c)落合由利子
全国のハンセン病療養所で詠まれた短歌・俳句・川柳など約3000作品を「逢いたい」「ふるさと恋し」「死んでくれ」など独自のテーマごとにまとめたアンソロジー『訴歌 あなたはきっと橋を渡って来てくれる』(皓星社)が昨年刊行された。編者は阿部正子さん。原発や薬害エイズやダウン症、誕生死など、社会問題や命にかかわる本を作ってきた編集者だ。
小さい頃から少数派で、自然に1対9の1になってしまうような子どもだった。 教師だった父と6人の異母兄姉、母と弟という大家族の中で育った。居場所がなく、庭の片隅でどろんこ遊びをするのが幸せだった。「子どもの頃は無口で表現することが苦手だったので、他の人もきっと表現するのは苦手に違いないと思って、人が心に秘めた思いを聞きとろうとする癖がつきました」
学生運動には遅れてきた世代だったが、社会への反発から大学へは行かないつもりだった。しかし結局「働くのが嫌で」教育系の大学に入学。国語学を専攻し、教師を目指すも「我が強すぎるので教師は向かない」と断念した。当時、四年制大学を出た女性の就職口はほとんどなかったが、母親が新聞で偶然見つけた三省堂の求人を見て応募し、採用された。
1974年に入社し、事典や法律関係の編集部を経て、82年に小学生向けの日記帳の付録として「生命を考える特集 原子力発電」という原発の危険性を啓発するページを作った。79年にスリーマイル島原発事故があったとはいえ、一般には原発の危険性がそれほど理解されていない時代だった。勇気ある行動をしたつもりはなかったが、出版後は電力会社から毎日電話がかかってきて、身の危険を感じるほどだった。 13頁ほどの特集だったが、原発の断面図など詳細な情報に基づいたまんがの構成がわかりやすく、各地の反原発運動で広く使われたことを数十年後に知った。
続きは本紙で...