(c)宇井眞紀子
アート作品は公共の文化財であり、みんなのものだ。しかし、日本では子連れでは美術館に行きづらく、子どもがアートに触れられる機会は限られている。「子どもと美術館」を主催する林ゆいさんは、鑑賞教育の研究と実践を通して、アートを子どもたちに身近なものにする活動に取り組んできた。
大学ではフランス文学専攻だったが、美術史の授業で紹介されたグリゼルダ・ポロック著『視線と差異─フェミニズムで読む美術史』(萩原弘子訳)を読んで衝撃を受けた。「この本を読んで、視線の持つ権力性と、自分が女性であり、見られる対象であることで感じてきた居心地の悪さが理解できました」 修士課程で美術史に専攻を変え、フランス印象派の女性画家ベルト・モリゾについて、フェミニズムの視点から研究した。モリゾを選んだのは色彩の美しさに加え、19世紀という時代に「出産を経てもプロとして作品制作にこだわり続けた意志の強さ」に惹かれたためだ。
そんな林さんが鑑賞教育に取り組むようになったきっかけは、自身の出産と子育てだ。博士課程在学中に2人の子どもを出産したが、2番目の子どものときは保育園がパンク状態で、2年ほど研究を休止した。この時期、ママ友に頼まれて子どもたちを連れて行った美術館で、それまで見えていなかった問題に気がついた。
美術館って子連れで行きづらいんです。看視員や観覧者の視線が厳しく、子連れに厳しい日本社会の縮図のようです。一方、欧米の美術館では、子どもたちが楽しそうにしていました。この違いはどこにあるのかと考えたのが、現在の活動の原点です」 出産後、海外への調査に行きにくくなったこともあり、研究テーマをファミリーアートプログラムの開発に変更した。
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