(c)落合由利子
昨年から、女性作家を取り上げた大規模な展覧会が注目を集めている。その中の一つがフェミニズム・アートの先駆者とも言われる田部光子(1933年生まれ)の活動の全貌にせまった展覧会「希望を捨てるわけにはいかない」だ。企画したのは福岡市美術館の学芸員・正路佐知子さん。福岡という地方都市に軸足を置きながら、美術と社会について問いかける展覧会を多数企画してきた。
絵を描くのが好きな子どもだった。高校では美術部に所属し、美術に打ち込んだ。しかし、「自分はうまく描けるが、何かが足りない」と気づき、制作ではなく美術史を学ぶことに。 比較的保守的な家庭に育ったが「女の子だから」自由に進路を選べた。「将来は地元に戻ってお見合い結婚して専業主婦になると思っていました。そういう縛りを内面化していました」
転機がおとずれたのは大学時代。これまでの価値観がゆさぶられた。「哲学や美術史の講義で初めて、固定観念を疑い、自ら考える学問のあり方に触れました。教科書をうのみにして何も疑問に思ってこなかった自分を反省しました」
フェミニズムに興味を持ったのも、授業がきっかけだった。美術史にフェミニズムの視点が導入されたのは70年代のアメリカだが、正路さんが大学で学んだ90年代後半から2000年代には、日本の大学でも女性研究者たちがフェミニズム美術史を教えるようになっていた。「視覚表象って美術作品だけではなくて、日常生活の中で触れる、とても影響力のあるものです。美術史が美術の世界だけではなく、社会とつながっていることを実感しました」
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