(c)江里口暁子
ある日、ネットで見つけた「楽天堂」。「豆とスパイスの専門店」とあるが、1坪あるかどうかの町家の土間で食品から生活雑貨、衣類に小物とあらゆるものを商っている。 「売れるんやろか」。がぜん興味が湧いた。京都市上京区、路地に町家が立ち並ぶ一角にある店を訪ねると、顔いっぱいの笑顔で千晶さんが迎えてくれた。
今ではすっかり京都に根を張っている千晶さんだが、夫婦と子ども2人で山口県から移住してきたのは2003年、千晶さんが40歳の時だった。 戦後、祖父が大阪でメリヤス工場を立ち上げて山口へ移転する。継いだ父が工場経営の傍ら、洋服店を開いた。当初は繁盛したが、バブルの崩壊とともに経営状況は悪化した。父は工場を中国へ移転し自らも現地へ、店を引き継いだ千晶さんは夫とともになんとか持ちこたえようと必死で働いた。 店の開店資金に借りたお金は1億円。毎月100万円と利息を返済して86万円の家賃と5人の従業員の給料を払う。楽しんでやっていた仕事だが次第に展望がもてなくなっていった。
「洋服屋って在庫との闘いなんです。シーズンの頭にはキラキラしていたものが季節が変わる頃になるとゴミみたいに感じてしまう。だから消費をどんどん煽らないといけないんです」
子育てにも同じジレンマを感じていた。絵本を買ってやるとその時は喜ぶ。だが読み終えるとまた次の絵本を欲しがる。町に出ると、子どもが欲しがるようなものであふれている。「買うことが喜びになっては大変だと思いました」 当時から洋服店の一画で「オーガニック&共生」を掲げて豆とスパイスを扱う 「楽天堂」を始めていたのは、消費を煽り・煽られるという関係ではない商いのあり方を模索していたからだ。
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