(c)佐藤真弥
「福島原発事故からの10年は、被ばく後の世界を生きてきたなって感じます。私自身も人生のステージが変わって、事故がなければあったはずの時間を失い、違う時間を生きてきました。多くの原発被害者が同じことを思っていると思います」。こう話すのは、福島原発告訴団団長の武藤類子さん。
類子さんと言えば、事故から半年後の2011年9月19日に東京で行われた「さようなら原発集会」での演説。6万人の参加者を前に、あの日以来福島の人たちが抱えさせられた悲しみ、不安、葛藤、分断を語り、「私たちはいま、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」「私たちとつながってください」と訴えた。聴く人すべての心をすくい取り、光を当ててくれるような類子さんの言葉に涙したのは、私だけではなかったはずだ。
あれから10年。類子さんは福島住民や避難者の人権や健康を守るべく、政府や福島県、東電との多くの交渉や、集会に参加し、12年からは東電幹部らを刑事告訴した福島原発告訴団団長に、15年には「原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)」立ち上げにも携わった。そして今年2月、12年から20年までの類子さんの折々の演説や文章を収めた『10年後の福島からあなたへ』(大月書店)を出版した。
類子さんは言う。「大きく人生が変わってしまった被害者がいて、では社会は変わったのかと考えた時に、変わってない部分がすごくあるなと思うんですね。こんなに大きな原発事故を経験しながら、今見直されているエネルギー基本計画の電源構成に原発が入っています。原発再稼働も西から始まり、今は女川、東海第二、柏崎刈羽原発まで再稼働に向かい、原子力政策が復活しています。事故を起こした東京電力や原子力関連企業は、被害地での自然エネルギー発電で利権を得はじめています。では私たち一般消費者は? 事故後は原発はいけないと思った方はたくさんいたでしょうけど、『消費社会』であることも電力をめぐる意識も大きく変わっていないなと思います」
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