(c)落合由利子
「おにぎりを差し出すと、それだけで心が解けてくるんです」。そんな風に相談者に向き合う石塚恵さんを見ていると、ここは本当に不動産会社かと思う。むしろ福祉の現場に近い。
神奈川県座間市にある会社の看板は「どんな人も拒まない」。高齢者、ひとり親世帯、車上生活者。生活に困り、住まいに困った人たちが、ここに来れば何とかなると、ときに九州や東北からもやってくる。 当然ながら業界では変わり種。それでも商売として成り立たせているのが、石塚さんの凄腕たるところ。不動産業が社会の中で持つ別の意味を発見させる、開拓者のようだ。
ことの始まりは親の介護だった。介護保険だけでは十分な家事支援サービスを受けられないが、かと言って自費ではヘルパーを雇えない。そこで考えた。「一方には仕事のない人がいて、一方には手が届く単価で家事援助してほしい人がいる。マッチングすれば自分も助かり、同じ思いの人にも喜ばれる」
こうして不動産会社に勤めながら、手弁当で家事援助事業を始めることに。手が回らなくなると、高校の同級生、松本篝さんに声をかけた。それがNPO法人ワンエイドに発展し、今に至るまで、二人は最良のパートナーであり続けている。
家事援助を始めると、しばしば高齢者は住まい探しに頭を痛めていた。取り壊し、破産による競売、夫が死んで家賃が払えない等で引っ越しを迫られても、行く先がない。「勤め先の不動産会社でも高齢者や障がい者は門前払い。ちょっと見守りするだけで問題ないのに」 ここで「かわいそう」で終わらないのが石塚さん。「それなら、自分で会社を作って貸してあげよう」と、宅地建物取引士資格に挑戦し、2012年にプライムを立ち上げた。
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