(c)落合由利子
ご馳走が所狭しと並べられた食卓で、緊張からうっすらと汗をにじませた男性が、父に自分が同性愛者であることを告げる。本当の自分を受け入れ愛してほしいと。表情が固まり目をそらす父。さまざまな感情が嵐のように内部で渦巻くのがわかる。ようやく父が絞り出した言葉は「同性愛を変えてほしい」―。映画『出櫃 中国LGBTの叫び』の一場面だ。かつて同性愛は取り締まりの対象であった中国の性的マイノリティーは約7000万人、95%がカミングアウトをしていないとされる。映画は、中国の若いゲイ男性とレズビアン女性が、孤独や葛藤を乗り越え、ありのままの自分を受け入れてほしいと、親と向き合い奮闘する姿に密着したドキュメンタリーだ。
監督は、中国で生まれ育ち、現在は日本の番組制作会社で、中国の社会問題についての番組を制作している、房満満さん。ある日、同じ会社で働く中国出身の後輩に、何気なく「彼氏いるの?」と聞いたところ、「彼女がいる」と告白された。
「えええ!って驚きを隠せなかった。彼女と仲良かったのに知らなかったんですよ。家に遊びに行くと幸せいっぱいの二人がいて羨ましいなって思った(笑)。でもこれからのことを考えると親に自分たちのことを言わないといけないって二人が話した時に、一転重たいものがドーンと落ちてきたような空気になったんです。その時にこれは面白いドキュメンタリーになるって直感的に思いました」と房さん。房さん自身も一人っ子で育ち、親がどんなに子どものことを思っているのかをよくわかっているからこそ、親の苦しさも想像できる気がした。映画にも登場する中国最大の性的マイノリティー支援団体「同性愛者親友会」の協力を得、二人の同世代の若者と盤石の信頼関係を築いてから撮影に入った。
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