(c)落合由利子
「昨日は2時間しか寝ていなくて」 会うなり、武井みゆきさんは興奮気味に口を開いた。コロナ禍でオンラインになった海外映画祭の試写で、「震えるほど」の作品に出合い、いろいろ調べるうち夜が明けてしまったのだとか。
映画配給会社「ムヴィオラ」を立ち上げて20年。「成長産業ではないからお金にはならない」と冷静に業界を見据えつつ、顔には「好きな映画を仕事にできて幸せ」と書いてある。それでもさすがにコロナ禍では落ち込んだという。
そもそも配給会社は映画を作る人(監督)と、見せる人(劇場)の間を取り持つ存在だ。ムヴィオラのように外国映画を扱う場合、国内外の映画祭などで「これぞ」という作品を見つけて買いつけ、輸入し、字幕を付け、上映館を探し、宣伝・広報まで担う。驚くほど多岐にわたる仕事だが、主な収益は劇場と分け合う興行収入。つまり、映画館が閉まればお手上げだ。
今年4月に立ち上げられたクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」には映画を愛する人々の気持ちが寄せられ成功した。しかし見えにくい配給の立場で支援を求めるのは難しい。なんとか自力でと、同業20社でオンラインの映画館で配信する「配給会社別 見放題配信パック」を考え、過去の公開作品を廉価で販売した。期待ほどの成果はなかったが、大きな一歩にはなった。
「配給会社は黒子に徹したい人が多いんです。私もそう。でも今回、自分たちの仕事をきちんと伝えるべきだと反省しました。だからこうして取材も断らない(笑)」。配信パックを11月末まで延長するのも、配給の存在を顕在化させるためだ。 横の連携は心の支えにもなった。「先は見えないし、お金の手当て、社員の生活、いろいろ考えますよ。もう駄目かも、とも思いました。大変だよね、って言い合える仲間がいたから乗り越えられた」
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