(c)落合由利子
昔話の桃太郎といえば、お供を連れて勇ましく鬼ヶ島へ乗り込む、勧善懲悪の物語。だが人形アニメーション『鬼退治したくない桃太郎』に登場する桃太郎たちは、こんな疑問を持つ。
「なぜ鬼は畑を荒らして作物を盗むの? そうだ、鬼に聞いてみよう!」 村人たちと鬼一家が集まって、話し合いの場が持たれる。「鬼たちはなぜ畑を荒らしたのか」「村人はなぜ鬼に石を投げたのか」。それぞれが取った行動には理由があった。それがわかると自分たちの思い込みや偏見にも気づき、共感も生まれ、話し合いは前に進む。どうすれば仲良く暮らせるのか。おとなにも興味深い展開だ。
「ハワイに伝わる『ホーポノポノ』という、和解の手法をモチーフにしているんです。日本では誰もが知る桃太郎ですが、鬼退治に主眼が置かれ、鬼の言い分には触れられていないんですね。これは対話に使えるんじゃないかと思いました。戦時中は子どもたちの戦意を鼓舞した桃太郎。平和教育に役立てられてよかった」と作者で映像ディレクターの高部優子さんは話す。 『鬼退治したくない桃太郎』の他にも、高部さんは平和教育のアニメを多数制作している。
平和教育に関わる原点になったのは、大学時代に旅したフィリピンで日本軍「慰安婦」にされた女性に出会ったこと。 「日本が戦争中にしたことを知らなかったんです。恥ずかしいと思いました」 卒業後は東京都内の私立女子高校で社会科を教えていた。授業中も化粧などして聞いてくれない子が多かった学校。ある時、日本軍「慰安婦」のドキュメンタリーを見せると、眉毛を抜いたりしていた女子たちの目が映像に釘付けになった。
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