(c)江里口暁子
コロナ禍でさまざまな業界が苦境に陥っている。もともと苦しいと言われていた出版業界もそのひとつ。個人書店は、なおさらだろう。 兵庫県尼崎市の小林書店は今年で開店69年。10坪の店だが、お気に入りの本をプレゼンしあう「ビブリオバトル」や作家を囲む会などのイベントで遠方からも客が訪れる。店を営む小林由美子さんに話を聞いた。
由美子さんの両親が書店を開いたのは1951年。年中無休で朝6時から夜中まで働く両親の姿に「商売だけはしたくない」と思ったが、本は時間を忘れて読みふけるほど好きだった。就職先で出会った昌弘さんと結婚し、生家で家業を手伝いながら専業主婦に。ところが30歳の時に店を継ぐことになる。関東への転勤を命じられた昌弘さんが「会社を辞めるから一緒に店を継ごう」と言ったのだ。
書店業界に足を踏み入れて、最初に直面したのは「男性社会」である。書店の会合や出版社の説明会。どこに参加しても中高年の男性ばかり。「女のくせにえらそうなことを言うな」と正面から言われたこともある。「新しいものを発信していこうという業界が、なんて古いんだと腹が立って」
小さな個人書店には新刊本やベストセラーが配本されないことにも憤った。しかしあきらめては先がない。欲しい本を入れてもらうには出版社や取次に名前を覚えてもらうしかない。由美子さんは当時、出版社が力を入れていた予約販売の企画ものを売ろうと考えた。自分の店にぴかぴかの新刊を入れ、お客さんに届けたかった。親の代からの信用にも助けられ、全国でトップクラスの予約を取ったことが何度もある。
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