(c)落合由利子
山形県の酒田港から1日1便の定期船で75分。日本海の沖合にぽっかり浮かぶ山形の離島・飛島を舞台に、そこに生きる人々を追ったドキュメンタリー映画『島にて』が公開中だ。かつては遠洋漁業と農業を生業に1800人が暮らした飛島も、今は高齢化が進み140人が暮らす。映画に登場するたった1人の男子中学生が卒業すれば、小中学校は休校になり、このまま人口が減れば、自治体運営すらままならない―それだけ聞くと、「限界集落」「衰退」「消滅」…などという言葉が次々と頭に浮かぶ。
ところが映画が描く、島の暮らしの豊かさ、個性豊かな島民のしたたかに生きる力強さときたら―。体が思うように動かなくても、日々船を出して海の幸を獲り、山に登って畑を耕し、島の恵みで生きる高齢者。そこにUターンIターンで島に移住して事業を興した若者が混じり、島の伝統を守りつつ、少しの革新が生まれる。かすかだが確かな、変化と希望の灯りも。
映画の共同監督の1人が、田中圭さんだ。もう1人の監督は、『夜間もやってる保育園』などの大宮浩一監督。田中さんが通っていた日本映画学校(現・日本映画大学)では、大宮監督の作品を教材として学んだほど、田中さんにとっては大先輩。大宮監督が、飛島で教員をしていた友人から最後の1人の中学生が卒業すると聞き、田中さんに声をかけた。
「作品作りの中で大宮監督と意見がぶつかった時に、どうやって自分の意見を通すのかは苦労しました」と笑う田中さんだが、瞳の奥に芯の強さが見える。それでいて柔らかい空気をまとい、なるほど飛島のおじいちゃんおばあちゃんが心を許し、身の上話を語るなど、距離が近しい映像になるのだ。
続きは本紙で...