(c)江里口暁子
織物で知られる京都西陣。路地の行き止まりにある民家の軒先に手作り看板が出ている。靴を脱ぎ奥へ進むと、機織り工場だったスペースに本棚が並ぶ。天井が高く、開放感がある。
奥田直美さんと順平さん夫婦が、古本屋「カライモブックス」を開いて10年がたつ。2人が敬愛する作家、石牟礼道子さんと水俣病に関する本をはじめ、フェミニズム、人文、文学、子育て、児童書…と幅広い分野の本が並ぶ。二人が面白いと思う人を呼ぶ会では驚くほど人が集まる。ここで出会い、つながっていく縁は多い。そんなお店を営む直美さんの話を聞きたいと思った。
「土が足りない、と思っていて」という言葉が出たのは、石牟礼さんとの出会いについて訊いた時だった。進学を控えた高校3年生だった直美さんは、入試の過去問に出てきた石牟礼さんの短いエッセイに衝撃を受けたと話す。
「お父さんの故郷である天草の村を訪ねた石牟礼さんが、道に迷いかけた時におばあさんと出会うんです。九州本土にも行ったことがないというおばあさんが旅人の石牟礼さんを家に招き入れるという…。そのやりとりを読んで、こういう世界が自分にも欲しいと強く思いました」 天草の島を出ずに生涯を終えるであろうおばあさんを、多くの人は気の毒に思うかもしれない。しかし直美さんはうらやましかった。 「あるいは、石牟礼さんの『苦海浄土』に出てくる水俣病の患者さんたちの、自分たちを育んだ風土に対する信頼感というか。揺るぎなく〝ここだ〟と根っこを生やす感覚を、この社会のどこにどう求めていったらいいかわからなかったんです」
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