(c)谷口紀子
初めて知永ちゃんと出会った日のことは忘れない。その日、手渡されたフライヤーは、いかにも小さな劇団の小さな公演のお知らせで、なぜそれを観に出かけて行ったのか、今でも謎だ。女性だけの劇団で、女の子たちが少年の役も演じているのだが、全く違和感がなく、むしろ男の子の頑なな態度や不器用さ、一途さをさわやかに演じていて引き込まれた。脚本も、SFの要素も入れながら若い男女の恋愛模様をユーモラスに初々しく描いており、久しぶりに胸がドキドキする感覚も味わえた。劇団の名前は「劇団空組」。当時まだ20代前半の空山知永さんが率いる劇団だった。
知永ちゃんが演劇に目覚めたのは、小学校5年生の時。クラスのお楽しみ会で突然「私、芝居をする!」と宣言し、初めて脚本演出を手掛けた。そこからは演劇人生一直線。 「知永は、ものすごく人に恵まれているんですよ。中学3年生の時にはすごい顧問の先生がついてくれて、演劇の大会でいきなり受賞して。高校はその流れで芸能文化科のある学校へ行きました」。そこで後に劇団空組の相棒となるメンバーにも出会った。高校を卒業後は放送芸術の専門学校へ行きたかったが、学費を振り込めなくて一旦はあきらめた。でも、その話を聞いた専門学校の先生が、異例の分割払いにしてくれた。 「ここであきらめたら、きっと他人のせいにしてしまう、それでいいのかと友人に諭されました」。ダメもとで直接専門学校へ掛け合った。そんな経緯の末に、もぎ取ったラッキーだ。そしていよいよ「劇団空組」が旗揚げとなる。
「恋愛三種盛」「月の王子」「ロミオとジュリエット」…数々の傑作を発表してきた。完成させるまでには、劇団員たちと団長・空山知永との熱い攻防が毎回繰り広げられる。
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