(c)落合由利子
埼玉県新座市にある堀ノ内病院の在宅医療チームに密着したテレビ・ドキュメンタリー「在宅死“死に際の医療”200日の記録」は、2018年6月に放送されるや大きな反響を呼んだ。どこにでもある、しかし唯一無二の家族のドラマ、とりわけ全盲の娘と父の姿に励まされたとの声が番組ディレクターの下村幸子さんに多く寄せられた。そこで今回、シーンを加えて映画『人生をしまう時間』を制作。なぜ、どのように、下村さんは死にゆく人々の最後の時間に向き合ったのか。
きっかけは上司の一言だった。「面白い先生がいるんだ。現場がすごいらしいよ」 小堀?一郎というその医師は森?外の孫で、東大病院で年間1000件も執刀した高名な外科医だが、67歳を過ぎて在宅医療に取り組み始めたという。 じつは下村さん、40代前半で大病を患っている。「人の痛みや弱さを身をもって知ることになり」、職場に復帰後は自ずと「命の現場」に惹かれていた。 早々に小堀先生に会い、一緒に患者宅を訪ねると、外からは見えない世界に驚かされた。
ベッド脇に包丁やレンジを置いて最後まで好きな物を食べようとする患者や、足の踏み場もない部屋をすいすい歩く先生に目を見張る。「電流が走ったように、これを伝えたい、って」 取材を進めるほどに、下村さんは「小堀スタイル」に魅了されていく。とにかく患者とのやり取りが、自分の体験とまるきり違う。患者と医師というより、人間同士のつき合い方。ああ、こういう先生もいるのだと、それまでの医師像が小気味よく崩れた。「いくら腕が良くても、一緒に歩いてくれないと患者は不安。こんな先生たちが人生の最後に伴走してくれたらどんなに心安らかだろう、と」
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