(c)落合由利子
北朝鮮に「大同江ビール」という、コクがあってうまいビールがある! 昨年12月に出版された『麦酒とテポドン 経済から読み解く北朝鮮』という目をひくタイトルの本で知った。著者は、北朝鮮を支持する朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」記者を長く続けた文聖姫さん。「ほんとうはビールでなく、朝鮮風に〝メクチュ〟とルビを振りたかったんですが」と語る文さんは大の酒好き。退職して、人々の暮らしに基づいた北朝鮮経済の実態を書いた博士論文を、一般書籍としてリライトした。
文さんは総連で活動していた父、編集者だった母に倣いジャーナリストを志望して、朝鮮高校を経て日本の大学を卒業後、希望する朝鮮新報に入社。取材のため度々訪朝し、特派員も2度経験した。
北朝鮮へ1996年に行った時には、前年の大水害の影響などで経済がどん底だった。毎日停電が続き、地方では道ばたに倒れている人を見たし、物乞いもいた。それまで朝鮮新報では「みんな幸せ」という記事が多く、負の部分は記事にできなかった。しかし水害の実態を報道しなくていいのか。会社や朝鮮総連からも北朝鮮政府に掛け合って、どんな記事も書けることになった。結果的に国連や在日コリアン・NGOの支援が入るきっかけになった。「農作物が不作で、エネルギーも不足し、東側諸国からの支援も難しい時代でした。案内員が、弁当を食べる私たちを人目につかない場所に連れていきました。私は取材が終われば帰るけれど、現地の人は飢餓まっただ中。できるだけ人々を応援する記事を書いた記憶があります」
「ありのままを書けないなど疑問もありましたが、尊敬する上司もいて、ここでがんばることに」。が、信じていたものが崩れたのが、2002年、北朝鮮による日本人拉致が明らかになった時だった。
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