(c)宇井眞紀子
昨年は、#MeTooを背景にフェミニズム文学本が多くの人に読まれた年だった。その一つが、昨年7月に発行された米国のフェミニスト作家ケイト・ザンブレノ著『ヒロインズ』。モダニズム文学の〝大作家〟として知られる男性の妻や愛人らが、書きたいという欲望と才能がありながら夫や社会から抑え込まれ、文学的・肉体的に死に追いやられた陰の文学の歴史を、著者自身の結婚生活の鬱屈やさまざまな引用をランダムに重ねながら、掘り起こす。
この『ヒロインズ』を翻訳し、出版したのが西山敦子さん。静岡県三島市で「CRY IN PUBLIC(C.I.P 、公共の場で叫べ)」というオルタナティブ・スペースを仲間と運営し、そこの翻訳・出版プロジェクトとして本書を発行した。出版の経験はゼロ。それでも西山さんは「初めからそんなの無理、と思わず自分にできる形でやろう、と。弱気になることはしょちゅうでしたが」と笑う。
西洋史を学んでいた大学生時代、米国作家カーソン・マッカラーズの作品に感銘を受けた。 「男の子みたいな10代の女の子たちとか、他にもジェンダーアイデンティティーやセクシュアリティーが定まらず揺らぐさまが描かれているのが、しっくりきたんです。主人公の少女の“大人”への岐路の迷いや戸惑いは、年齢を超えて自分も抱えてきた気がして…」。大学院では専攻を英米文学に変えマッカラーズを研究した。他にも米国のフェミニスト作家クリス・クラウスは「一人称を使いつつ“私”を開き、気づけば世界や社会の構造を浮かび上がらせている書き方が好きです」。
同じ頃に、1990年代に米国のパンク・シーンの性差別に対して起こったフェミニズムムーブメント「ライオット・ガール」と出合い、彼女たちが自らのメディアとしてジンを作っていたことを知る。ジンとは手作りの冊子で、内容も表現も多様だが、共通するのは「DIYの精神と手法(スタイル)」。
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