(c)落合由利子
黄、緑、ピンク。鮮やかな色をまとい、自由の風を運ぶように取材の場に現れた松村比奈子さん。「大学非常勤講師の組合委員長はサンドバッグみたいなもの」と笑い、「叩かれて職をなくしても、結婚していて最低限の生活保障はあるから」と、表に立ち続ける責務を語る。そして高学歴ワーキングプアである大学非常勤の問題を「じつは性差別と階級社会の問題」と鮮やかに解き明かす。その闘いの源には何があるのだろう。
「父が大学教員で、楽しそうに仕事をしていた」から、小学生の頃から学者になると決めていた。家では政治でも何でもよく議論し、学校では質問ばかりして先生に嫌がられた。集団行動も苦手。それで変わり者と言われ、「じゃあ、常識って何?」と幼心に芽吹いた疑問が、やがて少数者の権利を問う研究につながる。「社会にはなぜ多様性が必要か。他人と異なる信条はどう扱われるべきか」。こうして性同一性障がい者の戸籍の性別変更の法制化にも、研究と市民運動の両面で関わった。
しかし大学教員の道は予想と違っていた。時代は1991年に始まる大学院倍増計画のさなか。専門職の受け皿は開拓されないまま、10年で博士は倍増。非常勤を続けても専任になれず、公募に応募すると「女性の先生はすでに一人いらっしゃるので」と言われたことも。
「露骨でしょ。しかもそれを悪意と思っていない。要は女性の食い扶持は結婚で賄えということ」。伝統的な家族観が長年女性に強いてきた劣悪な労働条件が「大学院倍増で専門職を目指す男性にもふりかかり、初めて社会問題化したのです。だから『見える化』がとても大事」。
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