(c)宇井眞紀子
メキシコを中心に音楽活動をする八木啓代さんの歌声を私が初めて聞いたのは、八木さんがチリの軍事政権によるクーデターで殺された歌手、ビクトル・ハラの曲を歌った時だった。その後、2009年の裁判員裁判実施直前、裁判員制度では性暴力被害者が守られないと訴える抗議行動や、3・11後の脱原発デモでも出会う。 その八木さんから最近、ある映画のクラウドファンディングを行っていると知らせが来た。『天から落ちてきた男』という、アルゼンチンの村の出来事を撮ったドキュメンタリーだ。
「今年初め、メキシコで旧知のレコード会社の社長から、彼が監督した映画のDVDを『この映画、評判よくてね』と渡されて」 八木さんが見てみると、これがなるほど面白かった。表向きの話は、“ある日、ヘリコプターから遺体が落とされ、村人が手厚く葬った。すると村人たちの病気が治るなど奇跡が起きた”というもの。だが、その背景は1970年代のアルゼンチンの軍事政権による虐殺だ。3万人とも言われる人々が今も行方不明のまま。天から落ちてきた遺体も軍のヘリから落とされ、後にDNA鑑定によって身元が判明したことで、その人物のたどった運命についての、驚愕の真相が明らかになってくる。
「字幕をつけるためにクラウドファンディングをしたら、目標の倍額以上が集まりました。3月は東京と大阪で公開したい、監督をメキシコから呼ぶこともできないか、などと検討しています」
八木さんの学生時代は「コンドルは飛んでいく」など中南米の音楽が流行していた。ラジオで聴いたビクトル・ハラや同じチリの歌手、ビオレータ・パラなど惹かれ、歌の持つ社会的な力も知った。 均等法前世代で、外国語大学で通訳や翻訳家を目指してスペイン語を学んだ。そして国費留学でメキシコへ。
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