(c)落合由利子
同性愛の弁護士カップル、吉田昌史さんと南和行さんを追った、初めての長編ドキュメンタリー映画『愛と法』を撮るため、22年ぶりに日本で暮らすことになった戸田ひかるさん。10歳から欧州に住んできたから「過ごした年月で言えば、3分の2は欧州人」。複数のアイデンティティーを育みながら、それを束ねる根っこをずっと探してきた。白人社会に生きるアジア人女性として、マイノリティー差別にも敏感に育った。そうしたすべてが今につながっている。
始まりはたぶん、インターナショナル・スクールでの素朴な疑問。「こんなに多国籍、多文化の子が集まっていて、なぜわかり合えるのだろう」 答えを求めて社会学や心理学、人類学へと知的好奇心を膨らませ、やがて映像を記録媒体とする映像人類学を学ぶことに。しかし学究の道は選ばなかった。「理論構築より、現地でいろんな人に会い、めったに聞けない話を聞くプロセス自体に興味があったし、それを多くの人と分かち合いたいから」 こうして人類学の観察眼を自分の文化の一部である日本に向けて、映画作りへ。「日本人と名乗りながら、実はよくわかっていないから、外から研究対象としてのぞき込むつもりで」
『愛と法』に登場する「2人はバリバリの大阪人。開放的でサービス精神旺盛で、ラテン的好奇心にあふれて人間臭い。『日本人は物静かで礼儀正しい』という、自分が欧州でさらされた先入観のまま日本を見ていたら、彼らに会って吹き飛んだ」 弁護士という職業にも惹かれた。「彼ら自身が性的少数者で、いろんな経験をしたからこそ選んだ職業だと思います。だから悩みを抱えた人たちが全国から訪ねてくる。『社会の窓』と言うと別の意味になっちゃうのかな(笑)、でも文字通りの意味で、彼らの仕事を通じて、めったに見えない、見させてもらえない人間の柔らかい部分が見えるだろうと考えました」
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