(c)落合由利子
「この映画を作ったことで、過去の重荷から解放された」 ドキュメンタリー映画『祝福 オラとニコデムの家』が見つめるのは、14歳の少女オラとその家族。自閉症の弟ニコデムと酒浸りの父マレクを世話するオラに、監督は自身を重ねていた。
映画は昔からよく見ていた。「好きな監督はカール・ドライヤーにファスビンダー…。傑作ばかりで勇気を挫かれました。自分には一生かかっても撮れそうにない」。だから作り手の道は封印し、大学では写真と人類学を専攻。その後、新聞社で写真編集に10年も腕を振るったが、表現への思いは消えず、ついに決断する。映画を撮ろう。 文字通り現場を学校にした初監督作の本作は、技術や経験への慢心がないぶん、ひたすら真摯に対象に向き合う誠実と率直が画面にあふれ、すがすがしい。とはいえ内容は軽くない。
一家との縁は父親マレクとの出会いに始まる。ワルシャワ中央駅でのこと。言葉が通じず困っていた観光客を、彼は4カ国語を操り助けていた。社会主義時代、闇の両替で生計を立てるため独学で覚えたという。ここ20年は職もなく、駅の赤帽でチップを稼ぐのがせいぜい。
「学歴もなく貧しいけれど、善人で尊厳があり、信頼できる人だとすぐにわかった。なにより子どもたちへの愛にあふれ」、魅了された。映画の中でも口下手で不甲斐ない父親だが「僅かな稼ぎから娘に時計を贈ったり、息子を抱いて寝たり。そんな細部に愛情が見える」。
母親は家を出て新しい男と暮らしている。その母に代わってオラは家事一切をこなし、酒に溺れる父の面倒をみて、自閉症で社会生活が難しい弟の身支度から勉強まで世話をする。社会福祉士が来れば「特に困ったことはない」と気丈に微笑む。さすがに「もう、いや!」「ここには普通のことが一つもない」と爆発することもあるが、すぐに一家の大黒柱に戻っていく。
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