(c)谷口紀子
おかえりなさい! 仏・パリから岡野八代さんが帰国した。岡野さんといえば、「政治」そして「憲法」の話、と連想する人が多いのではないだろうか。確かに専門は政治学、理路整然と政策に関する言葉を紡ぐ人である。その岡野さんが、近年は「血縁を超えた家族のあり方」や「社会でケアを担うこと」について発言している。1月にはフェミニストカウンセリングの河野貴代美さんの著書『わたしを生きる知恵 80歳のフェミニストカウンセラーからあなたへ』(三一書房)で河野さんと対談し、母親との関係や自身がレズビアンであることなどを赤裸々に語っている。
もともとの専門は西洋政治思想史。そして、ハンナ・アーレントの研究者でもある。 「その社会の中でもっとも差別されるアイデンティティーで闘え、というアーレントの言葉がとても深く刺さった。在日、同和の問題とユダヤ人の問題、そして同性愛…。出自を言わなかったら通るということは、自分にうそをつかせること、そういう風にさせている政治を批判したのがアーレント。そこにシンパシーを感じました」 差別される側ががんばらねばならない、そんな仕組みを作っている政治のあり方を問題にすることが必要だと思った。
「アーレントはまた、公私二元論を言いました。〝公〟の世界は政治の言葉による世界、〝私〟の世界は暴力による支配の世界だと。でも実は、政治ではないと言われていた〝私〟の世界のほうが、世代を超えていろんな人と出会う。今まで政治学者がいっさい触れてこなかった親子や母子の関係とか、あるいは中絶に悩む女たちがどう語っているかとか、パートナーとの関係とか、親との関係とか、いろいろありますね。そうすると、自分が学んできた公的な政治の世界がすごくうそ臭く思えてきちゃって…」。政治学をやっていながら、それを見直さなくちゃいけないと思い、「ケアの倫理」について考え始めた。
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