生きる希望をくれる学校、を追って
決められたレールの上を走る多数派の人たちからは、ほとんど目を向けられることがない、夜間定時制高校。定時制統廃合の波にもまれ、たくさんの学校が姿を消した。そのひとつ、埼玉県立浦和商業高校(浦商)の定時制課程にカメラを向けたのが、太田直子さんだった。2002年から4年間、生徒の成長を追い続けた。
登場する高校生たちに、最初は驚かされる。酒に酔って登校する男子学生、茶髪にピアス、ジャージーにハイヒールの女の子。昼間は家庭やバイト先で過ごし、夜の教室に集まるが、授業に出ないで保健室や職員室でブラブラしている生徒も。
「最初は、ゆるいな~と思ったんです。生徒たちが歩き回っても暴言を吐いても、先生たちは静かに見守るだけでしたから。じっくり時間をかけて彼ら一人一人を受けとめることがどれだけ大事なことか、そのうち分かってくるんですけどね」
生徒たちから「盗撮ババア!」と呼ばれながらも、めげずにカメラを回し続けた太田さん。派手なメークが二度といじめを受けないための鎧だったり、優等生を無理して演じている子、虐待を受けている子…それぞれが抱える苦悩がしだいに見えてくる。何を信じればいいか分からない。友達や先生に自我をぶつけて傷つきながらも、自分の居場所を見いだそうとする彼らに近づいたり、時にあえて距離を置こうとする太田さんのカメラにも、迷いが見える。
少しずつ、生徒たちに変化が見られる一方で、学校は統廃合の波にのまれていく。
そして、迎えた卒業式。
「自分のことばかり考えていた子が、いつの間にか仲間のことを思いやって、変わっていく、というのが撮っている方も感動なんです。素顔が見えてくると一緒に悲しんだり、だんだん愛おしくなってきて」
続きは本誌で...
おおた なおこ
1964年東京都生まれ。高校非常勤講師、書籍の編集などを経て映像ディレクターに。『月あかりの下で ある定時制高校の記憶』は2010年度文化庁映画賞などを受賞。上映予定はhttp://tsuki-akari.com/グループ現代またはTEL03(3341)2863へ。