わたしたちの停留所と、書き写す夜
キム・イソル 著 小山内園子 訳
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わたしたちの停留所と、書き写す夜
- キム・イソル 著 小山内園子 訳
- エトセトラブックス2000円+10%
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いつ果てるともわからないケア労働の毎日の中で、自分自身の存在が削られていくという経験をしたことがある女性は多いだろう。
本書は著者自身の経験も反映したケア労働をめぐる小説。昔から何をしてもダメで40代・未婚・無職の「わたし」は、DV夫から逃げてきて今や稼ぎ頭の優秀な妹とその2人の子ども、仕事をする父・母と暮らし、“当然のように”家事・育児を一手に担う。「わたし」は詩を書くことが命で、大切な人との関係もあったが、ケア労働に疲弊しすぎて「鉛筆の握り方を忘れてしまったみたい。言葉を言えなくなってしまったみたい。考える方法を忘れてしまったみたい」。妹を助けたのは「わたし」だし、詩への思いを理解してくれたのも妹。そんな中「わたし」はある行動に出る―。
過酷なケア労働の渦中にいる女性の有りよう、自分を取り戻したい渇望が巧みに表現され、心に突き刺さる。その先に「わたし」が掴もうとした光に、読者もきっと照らされるだろう。(白)
即興がつなぐ未来 音楽と社会の狭間でおっとっと
音遊びの会 著
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- 即興がつなぐ未来 音楽と社会の狭間でおっとっと
- 音遊びの会 著
- 岩波書店2500円+10%
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知的障害のある人とその保護者、ミュージシャン、スタッフからなる「音遊びの会」のメンバーたちの、それぞれの思いを集めた本書。「はじめに」を読んでから、まずは「音遊びの会」の動画を視聴した。なに?これ…体がほどけた。鉄琴やドラム、ギターetc.てんでんばらばらなのにどこかでつながっている。
ミュージシャンは、知的障害のある子どもたちを「その社会が暗黙の前提としてるものを共有することが難儀な人」ととらえ、その子たちの「わけわからん」音をきくために、音楽(社会)の暗黙の前提と「いちいち向き合」う。音楽療法に関わってきたスタッフは治療や福祉・教育とは違う対応を模索する。保護者は、わけわからん子どもに「決まり事」を懸命に「仕込んで」きた日常と葛藤する。こうした活動は「面倒くさい」が、新しい理解や関係性が生まれて「面白い」。
背負い込んだ「暗黙の前提」を問い直し、少しずつそれを外してみると、体も社会もほどけていくだろう。(葉)
- 最新報告 混迷のリニア中央新幹線
- 樫田秀樹 著
- 旬報社1800円+10%
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社会情勢が変化しても、「リニア中央新幹線」計画は進む…。事故調査ではなく検証報道を旨とするフリージャーナリストが、リニアの工事や事故、会見や公聴会、裁判も徹底取材して緊迫の報告をする。
工事主体のJR東海は、工事の遅延を静岡県の“抵抗”に責任転嫁したが、実は工事の進捗を隠す方便だった。遅延は全路線にわたり、トンネル工事は今も20%以下の掘削率。竣工は今世紀半ば過ぎと著者は試算する。大深度の工事は周辺住民への影響が深刻で、これまで何度も事故が起きていた。労災事故隠しや川の水涸れ・異常出水など問題山積みだ。トンネル掘削による残土処理では近隣住民へ犠牲を強いる。地域の分断さえ起こす。
資金難に陥る可能性もあり、大企業の欺瞞にまみれた無責任さは見過ごせない。最後に登場するリニア導入を中止させた米国の例から、重要なのは自治体の立ち位置を明らかにした向き合い方と、市民の力、そして、メディアの役割だと理解した。(え)