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ふぇみんの書評

到来する女たち 石牟礼道子・中村きい子・森崎和江の思想文学

渡邊英理 著

  • 到来する女たち 石牟礼道子・中村きい子・森崎和江の思想文学
    • 渡邊英理 著
    • 書肆侃侃房2400円+10%
     キャリア初期に文芸交流誌「サークル村」に参加した副題の3人。日本語文学研究者の著者は、3人の交差を踏まえ、各自の『女と刀』『椿の海の記』『遙かなる祭』を紐解きながら、個を超えて響き合う集合的な表現が生んだ思想を描き出そうと試みた。  資本主義と家父長制のもとで女性たちは沈黙させられてきた。3人は、周縁に追いやられてきた女性たちの声を聞き書きなどで掬い上げ、抑圧の構造や支配を文学などで可視化。著者は、3人が摩擦や差異をなかったことにせず、そこから「抵抗」を生み出し、ケアし合う個と集団の思想を模索したと主張する。  共通の抑圧体験が人々をつなぐのではない。著者が「読むべきは、このけしてひとつではない、常に一にして多なる他の群れの女たちである」と書くように、排外主義が強まる今こそ、差異を認めて協働する連帯の重要性を痛感する。半世紀も前の実践でありながら、時代に応じるかのように時機が到来したのだ。(春)

    SISTER “FOOT” EMPATHY

    ブレイディみかこ 著

    • SISTER “FOOT” EMPATHY
    • ブレイディみかこ 著
    • 集英社1600円+10%
     英国在住のライターで、「地べた」から、エンパシー(共感。「他者の靴を履く姿勢」)の必要性を説く著者。シスターフッドをめぐる2022年から25年までの雑誌掲載のエッセイを収録。よく目にする「シスターフッド」だが、先鋭化し分断と対立をもたらしたり、逆に互いの涙を拭くばかりの激励会になったり…。それに抗い、多様なシスターたちを真にエンパワメントするための書だ。  アイスランドを男女平等先進国に変えた、1975年に行われた組織率9割の「ウィメンズ・ストライキ」を可能にした「地べたでの説得活動」、シングルマザーによるスクウォッティング(住宅占拠)、排外主義的・新自由主義的女性リーダーの危険性…様々なトピックから訴えるのは、こんな時代だからこそ、自分自身とも「シスターフッド」を築き、立場の全く違う人とも足元での体験に基づいて、交わってつながることの大切さ。パンクな筆致とともに、世界の広さや深さも伝えてくれる。(棋)

    版元番外地 〈共和国〉樹立篇

    下平尾直 著

    • 版元番外地 〈共和国〉樹立篇
    • 下平尾直 著
    • コトニ社2800円+10%
    社名に〈共和国〉を掲げ、“一人出版社”(版元)を立ち上げて10年の著者が、書への、知への愛に満ちた10年間と人生を振り返る。少々偏屈(自称)ながら、編集の仕事や文学論を“爆発”させた書だ。そもそも登場するインタビューや講義は脳内一人芝居だし、書評紙には自社の書籍広告ではなく意見広告(“兵器や原発のかわりに本を”とか…)を載せたりもする。加えて本書のレイアウトも相当にユニークだ。  とはいえ、著者の言葉は経験に裏打ちされている。本には出版から時が経って読み直される「再帰性」があり、“そこにある限り生き続ける”。そして、出版の仕事は自分史を掘り下げるためなのだと、著者の思想形成史が(延々)描かれる。ドストエフスキーとマルクスに共通する「一つ目巨人」のモチーフは現代の巨大産業と監視支配を表す先進性があるのでは、という見解も。“古典”には今の現実を捉え返す発見がある、との指摘も納得。〈共和国〉、目が離せない。(保)
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