インターセクショナリティで語る 植民地支配と侵略戦争
ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員会 編
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インターセクショナリティで語る 植民地支配と侵略戦争
- ふぇみ・ゼミ&カフェ運営委員会 編
- あけび書房 1700円+10%
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インターセクショナル・フェミニズム運動のNGO「ふぇみ・ゼミ&カフェ」が2020年に開催した講座に、新たに対談等を収録した本書。インターセクショナリティ(差別の交差性)で戦争責任や植民地支配責任を捉え直し、不可視化されていたもの、今に続く、不可視の権力構造に切りこむ。
朝鮮半島の土地の収奪構造、台湾の政治弾圧事件(2・28事件)の「政治寡婦」、ジェンダー化・人種化された兵士の戦争トラウマ…。記憶の継承に関する歴史学者の吉田とゼミ運営委員の梁・永山との対談で、吉田は戦争を自分事にするキーワードは「心と身体」と。吉田の著作『日本軍兵士』を今の労働環境に引き寄せる若者が多いと言う。同じく委員の熱田は、日本による戦時性暴力への国家謝罪・賠償がないまま中国の被害女性のフィールドワーク調査時に起こるトラブルと、女性を取り巻く中国社会の階級・民族差別を指摘。戦後・解放80年の今、今後の「豊かな研究・運動」に必要な一冊だ。(鯨)
緑地と文化 社会的共通資本としての杜
石川幹子 著
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- 緑地と文化 社会的共通資本としての杜
- 石川幹子 著
- 岩波書店940円+10%
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イチョウ並木や数々の巨樹と欧風庭園で知られる東京・明治神宮外苑は今、無謀な再開発が進む。著者は、この再開発にモノ申し、外苑の樹木伐採に抗議する場に幾度も登場した、都市環境計画専門の行動する研究者。
公園は都市の“肺”であり、水と緑を保全することで文化や人々のくらしを支え、関東大震災では外苑の広場が被災者の避難所になるなど、維持すべき社会的共通資本だと説き、このままでは外苑は超高層の谷間に沈むと憤る。国連国際記念物遺跡会議(イコモス)からも異議が出された。
東京都が市民の多様な意見を聞かず、開発の“意義”と称するものを3度も変え、虚偽も言い、すでに破綻していること、何のため・誰のための大義なのか、富のための大義ではないかと指摘する。人々が行き交い、誰もが楽しめる場である世界中の公園の有り様やアジアの杜も示しながら、公園は市民的自由の発露の場でもあるはずと、著者は具体的に提言する。(三)
イスラエル=アメリカの新植民地主義 ガザ〈10.7〉以後の世界
ハミッド・ダバシ 著 早尾貴紀 訳
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- イスラエル=アメリカの新植民地主義 ガザ〈10.7〉以後の世界
- ハミッド・ダバシ 著 早尾貴紀 訳
- 地平社2500円+10%
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読んでいて、何度も頭を強く殴られるような衝撃を覚えた。自分がいかに欧米のプロパガンダに首まで浸かり、そこから〈中東〉を見ていたことが理解された。
著者は、イラン出身で米在住の中東・イスラーム研究者、エドワード・サイードの後継者とされる。中東ニュースサイトの「ミドルイースト・アイ」の連載から、10.7一斉蜂起以降のコラムをまとめた一冊。ダバシが何度も書くのは、パレスチナ/イスラエル問題の本質が、欧米の入植者植民地主義であり、イスラエルという国家が入植者植民地であるという点だ。ヨーロッパからの入植者が世界のあちこちで繰り返した先住民排除と支配的な社会の形成は、現在のイスラエルの入植行為と全く同じである。
冒頭の「日本の読者へ」では、2024年7月の長崎原爆忌へのイスラエル大使不招致に触れ、欧米思想全体を断罪すると同時に過去の日本の侵略も等しく批判し、同時に無辜のパレスチナ/イスラエルの民を悼んでいる。(公)