パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち
〈民族浄化〉の原因はどこにあるのか
早尾貴紀 著
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パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち
〈民族浄化〉の原因はどこにあるのか
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〈民族浄化〉の原因はどこにあるのか』早尾貴紀 著/皓星社2500円+10%
パレスチナで進行する〈民族浄化〉は、欧州の植民地主義に端を発する。植民地主義の席巻の中、日本はこの100年、欧米列強に与して東アジアの分断に大きな責任を負い、それがパレスチナの分断と占領と破壊の共犯者となったと、歴史を紐解き、著者は説く。
最も目を開かされたのは、南アフリカ・朝鮮半島・パレスチナと日本の植民地主義・隔離政策等とを関連づけて考察した第3部の対談。各地の歴史を横断的に語り合い、パレスチナには矛盾が集約すると言う。パレスチナで病院や学校が集中的に破壊されるのは「リプロダクティブ・ジェノサイド」だとの指弾も。
イスラエル人歴史家のイラン・パペがイスラエルによる無差別の虐殺を暴いたと評価。武力闘争をめぐり日本赤軍・重信房子を批判する。2023年10月7日は〈ハマスの先制攻撃〉などではなく〈ガザ蜂起〉だとする徹底した指摘も腑に落ちた。(三)
誰も踏みにじらない未来のためのフェミニズム
ともに語り、ケア・共存・共生を考える韓国フェミニスト13人からの投げかけ
キム・ウンシル 編著 秋元美穂、佐藤香陽子 訳
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- 誰も踏みにじらない未来のためのフェミニズム
ともに語り、ケア・共存・共生を考える韓国フェミニスト13人からの投げかけ
- 津田憲一 著キム・ウンシル 編著 秋元美穂、佐藤香陽子 訳
- 梨の木舎2000円+10%
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2015年以降韓国ではフェミニズムが大衆化し、多くの、特に若い女性たちが声を上げるようになった。しかし20年からのコロナ禍で労働等での構造的問題が浮き彫りに。さらに女子大入学妨害事件等トランスジェンダー排除の動きも。本書は13人の韓国のフェミニストが議論を重ね、生存基盤の「根っこ」からフェミニズムを問い直し、新たに編み出した。
「女性」とは誰か、「被害者フェミニズム」や新自由主義的フェミニズムの問題、ケアの軽視や気候変動の解決策。「柔軟に開閉する二重戦略」で、時に「女性」アイデンティティで連帯し、時に「女性」の虚構を解体し、ケアが必要な人や自然と共存する地域社会をつくる―どの論考も刺激的で、フェミニズム抜きの社会変革もフェミニズムだけの変革も不可能だと教えてくれる。深い学びを得て、このような「ともに語り、考える場」が日本にも必要だと痛感した。(珞)
- ルポ 司法崩壊
- 後藤秀典 著
- 地平社1800円+10%
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2022年6月17日、最高裁第二小法廷は福島第一原発事故の避難者損害賠償訴訟に「国に責任はない」との判決を言い渡す。以後これをなぞっただけの判決・上告棄却、不受理が続く。さらに25年3月5日、最高裁は東電の刑事責任を問う裁判の上告を棄却した。
著者は前著『東京電力の変節』で6.17判決を取り上げ、東電と最高裁、国、巨大法律事務所との癒着の構造を明らかにした。本書ではさらに、国策に従順な司法と、それを維持する巨大法律事務所の存在を深掘りする。最高裁が高裁での事実認定を覆し、独自に事実認定をして判決をくだすなどのルール違反も指摘する。
これまで最高裁に一人しかいなかった巨大法律事務所と無関係な判事が、今年もう一人加わった。著者は市民による最高裁への包囲行動や署名提出等が功を奏しているのではという。司法の崩壊を食い止め、原発裁判に正しい判決を導くためにも、最高裁への監視と行動を続けることが必要だ。(い)