部落フェミニズム
熊本理抄 編著 藤岡美恵子ほか 著
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部落フェミニズム
- 熊本理抄 編著 藤岡美恵子ほか 著
- エトセトラブックス2400円+10%
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「インターセクショナリティ」「複合差別」が知られるようになったのに、なぜ部落女性は、フェミニズムからも部落解放運動からも不可視化され続けているのか。それに抗うために、著者らは「部落フェミニズム」を名乗り、主体と権利を奪回し、未来へとつなぐ。
部落女性の不可視化と無関心をレイシズムと喝破し、水平社宣言が呼びかける「兄弟」は「姉妹」を削除した結果と。すでに100年前に部落女性は「二重三重の差別」を認識し、婦人水平社を設立、対抗言説も発信していた。著者らは自らの経験、歴史資料、聞き取り等によって、絡み合った抑圧と差別の網を解きほぐし、部落女性の営みと叡智を掘り起こす。部落女性が担った食文化、識字運動、権利保障運動、フェミニスト・カウンセリング、障害者自立生活運動…どれもが尊厳回復の実践だが、一方で「部落フェミニズム」と名乗ることによる加害性も意識する。
読み手一人一人に自省と意識変革をもたらす一冊。(成)
労働をめぐるシスターフッド プロレタリア文学・フェミニズム・労働研究
辻智子、水溜真由美 編著
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- 労働をめぐるシスターフッド プロレタリア文学・フェミニズム・労働研究
- 辻智子、水溜真由美 編著
- 北海道大学出版会4500円+10%
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戦間期、女性たちの労働運動が燃えあがった。治安維持法による厳しい弾圧と統制下にあったが、彼女たちは仲間を見つけ、慎重に行動し、国家や企業と対峙した。
そこには女性労働者と女性知識人の連帯があった。同時に、軋轢と分断もあった。女性たちの分化と序列化が進むなか、さまざまなアプローチによる関係構築の試みが存在していた。たとえば2章で扱われるプロレタリア文学者の佐多稲子は、小学校5年生から働いてきた経験や取材をもとに小説に取り組んだ。帯刀貞代の労働女塾で知られる東洋モスリン争議をモデルにした作品では、党の論理に回収されない女性たちのノイズと多様な対話の実践を描いた。
本書は、文学、運動、研究の3つの切り口から、戦間期日本の女性労働をめぐる活動のダイナミズムを明らかにする。歴史学、教育学、思想史、文学など専門領域を異にする6人の研究者の取り組みにより、女性たちの連帯の複雑さが生き生きと捉えられている。(是)
共生社会をめざして 人物で読むジェンダー史
江刺昭子 著
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- 共生社会をめざして 人物で読むジェンダー史
- 江刺昭子 著
- インパクト出版会2200円+10%
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共同通信社と加盟新聞社のサイトに、著者が2018~23年に寄稿した時事エッセイ43本を「性差別、性被害を告発する」など6テーマに分類、書き下ろし追悼文も加えた。女性史を時代と地域を超えてたどりながら、今なお変わらぬ女性差別を問う。
草分けの女性記者らを取り上げた序章「メディアで生きる」は、著者のライフワークを想起させて出色。一人前の職業人ではなく、性的対象としか見ない雰囲気を、#MeToo運動が広がる18年の財務事務次官による女性記者へのセクハラと重ね、「根深い女性蔑視」は人権侵害で性差別だと指摘する。元タレント中居正広氏の性暴力に端を発する一連のフジテレビ問題に象徴されるように、ジェンダーの課題が山積する昨今のメディア業界の状況と地続きだ。
本書が親しみやすいのは、人物を通じて時代を捉え返すから。今を生きる一人一人が、後の時代から見れば女性史そのものだと励ましてくれる。(春)