物語ることの反撃 パレスチナ・ガザ作品集
R・アルアライール 編 藤井光 訳 岡真理 解説
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物語ることの反撃 パレスチナ・ガザ作品集
- R・アルアライール 編 藤井光 訳 岡真理 解説
- 河出書房新社2720円+10%
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「わたしが死なねばならないとしても」という詩で知られる、パレスチナ・ガザの詩人、文学研究者の編者によって、2013年に英語で編まれた短編小説アンソロジー。書き手は大学教員でもあった編者のほか、教え子等14人のガザの若者。書き手15人中12人が女性であることも特徴だ。しかし編者は23年12月にイスラエルの“精密爆撃”で殺害されたため、本書は新たに24年の時点で連絡が取れた書き手による追悼文も収録。6人の書き手とは連絡が取れないという。
分離壁を挟んだイスラエルとパレスチナの農夫、爆撃と瓦礫の下からの独白、平穏が訪れないイスラエル兵、奪われた土地との絆、絶たれた夢と貧困…08年のイスラエルによる大規模爆撃を経て、英語とSNSに長けた書き手たちは、「物語る」ことで抵抗し、「犠牲者」としかカウントされず非人間化された自らの存在と尊厳をこの世界に刻みつける。イスラエルによるジェノサイドが続く今、私たちにはこれらの声に応える義務がある。(歌)
クラクフ・ゲットーの薬局
タデウシュ・パンキェヴィチ 著 田村和子 訳
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- クラクフ・ゲットーの薬局
- タデウシュ・パンキェヴィチ 著 田村和子 訳
- 大月書店2400円+10%
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第2次世界大戦中、ナチス・ドイツは占領地にゲットー(強制集住地区)をつくりユダヤ人を隔離した。ポーランド南部の古都クラクフのゲットーでは、ポーランド人の著者が許可を得て薬局を経営し続け、密かにユダヤ人の支援を行った(現在は博物館)。本書はその記録である。
薬局には薬を求める人、状況を教え合い身の上話をし、一時の憩いを求める人、奥の部屋で秘密裏に会合をする人などがひっきりなしに立ち寄った。著者は人々がいかに生き抜き、命を落としていったのかを記し、密告者や裏切り者、ナチスの協力者の名も細かに記録。ナチスによる恐怖の日々に、自尊心を失うことなく死の脅威に対峙した人々の直接の目撃者であり記録者である役割を自身に課した。
突然家族と引き離されて身動きできない人や、ゲシュタポの気まぐれで撃ち殺された人の様子などが脳裏を離れない。そして今、現代のゲットーでの恐怖や悲痛がオーバーラップする。(三)
- 刑務所ごはん
- 汪楠、ほんにかえるプロジェクト 著
- K&Bパブリッシャーズ1800円+10%
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ほとんどの人は知らないだろう、受刑者に出される刑務所の食事。これは画期的な本だ。中国残留孤児2世の著者が、13年の受刑生活を経て、受刑者の更生を支援するために始めたボランティア団体で、受刑者200人にアンケートを送り、回答や手紙を基にまとめた本書。受刑者の思いや再現された〈刑務所ごはん〉が、カラー写真とレシピ付きで載っている。
焼肉、すきやき風煮とか、一見おいしそうだが、焼肉の肉は茹でたもの、すきやき風煮は豚肉と野菜の煮物だ。管理栄養士の工夫は感じるが、炊事場では基本、火が使われず蒸気式の大窯で調理するため、魚は生臭く、全体に水気が多く、ぬるく薄味で量も少ないと。
受刑者にとって甘味やレトルト食品、菓子などは貴重で、食事が数少ない楽しみのひとつであることに切なさを感じる。物価高騰や不景気で食事内容は年々ひどくなっているという。更生への力となるよう、刑務所で改善すべきことは多いのではと思った。(ん)