エトセトラ VOL.12 戦争をやめる
エトセトラブックス 編
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エトセトラ VOL.12 戦争をやめる
- エトセトラブックス 編
- エトセトラブックス1400円+10%
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「戦争をとめる」ではなく、「戦争をやめる」。それは戦争が外部からの「厄災」でなく、すでに私たちが戦争に取り込まれ、内面まで支配されていることの証左。軍事主義はもちろん、家父長制、天皇制、植民地主義、帝国主義、資本主義等が複雑に絡み合う。「戦争をやめる」ために見極めねばならない先を、多様な執筆者が足元から照らしてくれる一冊だ。
「国」と「家」と「女(おなご)」をめぐって思索と詩作を続け、女性らが集う「麗(うら)ら舎」を建てた岩手県の小原麗子の歩み、安保法制成立後から月に何度か福岡の街頭に立ち続ける森部聰子や戦後福岡の女の歩みを記す佐藤瑞枝、東大のパレスチナ連帯キャンプ内の暴力とガザでの惨状との狭間での戸惑い、韓国のフェミニズム作家ヨンミの「済州島4.3事件とハルマンたちのことば」…。言葉だけでない、様々な形で戦争に抗ってきた人たちの声が編まれる。魔女版画の頁では、一つ一つの絵の解説も。ふぇみんの秋山花子さんもいる!(楼)
韓国、男子 その困難さの感情史
チェ・テソプ 著 小山内園子、すんみ 訳
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- 韓国、男子 その困難さの感情史
- チェ・テソプ 著 小山内園子、すんみ 訳
- みすず書房3000円+10%
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「怪物のような男は、ある日忽然とこの土地に現れたわけではない」。本書は文化評論家・社会学研究者の著者が韓国の問題となる男たち=韓国男子について、歴史・社会的起源と現在地を記した軽快な韓国近現代史・文化評である。
味噌女(テジャンニョ)やキムチ女(ニョ)などの発案者として悪名高い彼らへの探究心は朝鮮時代まで遡り、被植民地支配、建国、内戦、民主化、不況という韓国史における「男らしさ」の変遷を概説する。
特に1990年代末以降、男性性への執着が生み出す歪みを自分たちではケアできず虚構に基づく嫉妬と憎悪により女性や非男性もろとも自己卑下の“味噌”に漬け込もうとする「韓男(ハンナム)」たちの涙ぐましい努力は、メガリアをはじめ大胆不敵のフェミニストのそれと比べ、ショボくて泣ける。
著者は本書には「フェミニズムの話が抜けて」いると振り返るが、本書が韓国、また東アジアのフェミニズムを逆照射することは間違いないだろう。(こ)
わたしたちの中絶 38の異なる経験
石原燃、大橋由香子 編著
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- わたしたちの中絶 38の異なる経験
- 石原燃、大橋由香子 編著
- 明石書店2700円+10%
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「配偶者同意要件」や、女性に罪悪感を持たせる中絶について、“みんなの経験を聞かせてほしい”と、声を集めた。編者は、中絶薬を飲む女性の一夜を描く戯曲を書いた劇作家の石原燃さんと、堕胎罪の廃止と中絶の権利を求めて活動する大橋由香子さん。中絶をめぐる女性運動の歴史、多様な体験を綴る手記、移民女性の中絶の困難や、トランス男性・ノンバイナリーの人々の困難で複雑な体験などを収める。
男性中心目線で、まるで懲罰的な中絶方法が、女性にスティグマを与えている現実。一方で、中絶の痛みは思い出すが後悔はない、賢明な選択だった、自分の人生は自分で決めたい、自分の体験を誰かの役に立てたい、という言葉に、何度もうなずき、力づけられる。術後、枕元に置かれた甘い紅茶に、労われているとほっとしたとの回想、仲間と語り合う話…。
中絶は人権だ。安全で安心な中絶を求めて闘ってきた女性たちの輪に、わたしもいる。(三)