理想の彼女だったなら
メレディス・ルッソ 著 佐々木楓 訳
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理想の彼女だったなら
- メレディス・ルッソ 著 佐々木楓 訳
- 書肆侃侃房2100円+10%
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米在住のトランスジェンダー女性である著者が2016年に書いた、トランス女性である高校生を主人公にした青春小説。周縁化され、悲劇的か嘲笑的に描かれたのでない物語があることの貴重性と重要性は、今だからこそ際立つ。
アマンダは、ある出来事を機に、母と離婚した父のいる新しい街で父と暮らすことに。「娘」に戸惑う父との関係はぎこちないが、友人もでき、遊んだりおしゃべりしたり、恋をしたり…“普通の”高校生活を謳歌する最中、あるパーティーで事件が起こるが-。
一人称で語られるアマンダの経験を追体験することで、トランス女性の苦しみ、孤独、痛み、困難を、非当事者は肌身で感じ「ジェンダーや性に対する自身の理解にもつながる」(著者覚え書き)。それでいて「啓蒙」の類いの堅苦しさはなく、ポップな筆致。何より自分に「愛される価値、生きる価値がある」と体得していくアマンダの道程は多くの当事者を励まし、道に迷う人たちの光にもなる。(毅)
移民都市
L・バック、S・シンハほか 著 有元健ほか 訳
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- 移民都市
- L・バック、S・シンハほか 著 有元健ほか 訳
- 人文書院 4800円+10%
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帝国主義の歴史を背景に、今も排外主義がはびこる「移民都市」英国ロンドンの社会を問う。家族の歴史、移民の困難や悩み・葛藤を、社会学者がアジアやアフリカ・中東などからの若い移民30人と時間をかけて対話し、聞き取った協働の書。著者には本研究に参加した移民も名を連ねる。移民たちが大都市の生や歴史を積み重ねることが描かれる。
「あなたがそこにいるから、私たちがここにいる」。英国の軍事関与の結果、母国を脱出せざるを得なかった移民たちの境遇を表す端的な言葉だ。移民たちは出身国や移民の時期で序列化される。様々に監視も強まり、在留資格を得るために費やさなければならない時間は心身に影響する。ある女性は親族との葛藤にフェミニズムや家父長制を結びつけた視点を語った。
多様な文化を持つ移民と「ともに」暮らすことで、都市は豊かになる。これは英国だけの問題ではない。日本の移民政策も振り返り、問い直されるべきだ。(三)
- 杉並は止まらない
- 岸本聡子 著
- 地平社1600円+10%
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「公共の再生」、「対話の区政」、多様性やジェンダーなど、様々なキーワードで活躍する岸本聡子東京・杉並区長。本書は岸本区長の就任2年間の挑戦の記録だ。
選挙の争点だった児童館廃止問題は、計画が進行する児童館の廃止は止められなくとも、新たな館の整備や、当事者の子どもの意見を聞き、子どもの視点に立った居場所づくりが進められている。また、区の職員数を増やし、会計年度任用職員の給料を上げ、ケア事業所への委託料も引き上げた。区の予算の編成に市民が直接参加する「参加型予算」も始まった。暮らしや福祉、環境の問題に職員も住民も共に取り組んでいる様子がよくわかり、区政において草の根民主主義が起きているようだ。
杉並区がうらやましいと言ってはいられない。地域の具体的な難題は地元住民が一番よく知っている。本書を参考に、自分の住む街で、職員と住民が共に課題に向き合い、予算の使い道を考えたいと思いたくなる希望の書だ。(ゆ)