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ふぇみんの書評

原発と民主主義 「放射能汚染」そして「国策」と闘う人たち

平野克弥 著

  • 原発と民主主義 「放射能汚染」そして「国策」と闘う人たち
    • 平野克弥 著
    • 解放出版社2500円+10%
    著者は茨城県東海村近隣の出身で、現在は米国の大学で教え、福島原発事故後、夏冬に来日して行ったインタビューから10 本を選ぶ。  冒頭、村上達也元東海村村長は、就任2年目にJCO事故に遭遇したことにより脱原発に転じ、地方自治の視点から、エリート官僚を批判して国策と対峙してきたと明快に語り、国策は植民地政策とつながっていると指摘する。  武藤類子さんと鎌仲ひとみさんへのインタビューでは、武藤さんは福島原発告訴団の活動から、鎌仲さんは核をめぐる3部作の製作意図と思いについて語る。内容は互いに呼応し、広がりと深みを持つ。2人がともに日常の暮らしを基盤とし、「女性」への信頼を語ることに大きく共感する。  ここで提示された、国策によって作り出された差別と犠牲の構造、自分自身の加害責任そして教育のあり様を問うことは、読み手それぞれが受け止め考えていくべきことだろう。「国策」の牙城はまだ堅牢だが、希望はあると感じる。(ね)

    高雄港の娘

    陳柔縉 著 田中美帆 訳

    • 高雄港の娘
    • 陳柔縉 著 田中美帆 訳
    • 春秋社2500円+10%
    日本統治下の1930年代から蔡英文が総統に再選される2020年までの約90年の台湾を、南部の湾口都市・高雄で生まれた女性、孫愛雪を主人公に描いた歴史小説。  日本式の高等教育を受け、日本由来の「良妻賢母」を信条としていた愛雪。日本の統治撤退後の中国国民党政権による弾圧下で、密告を受けて父が、後に夫も国外へ避難すると、愛雪も夫のいる日本に渡り、次々と事業を立ち上げて“台湾独立運動の出資者”となる夫を支える。やがて父の密告をめぐる真実が明らかに-。  日本統治下の社会に関する作品がある著者だけに、1頁目から当時の台湾の情景や空気までも色鮮やかに立ち表れ、実在のモデルがいる愛雪以外の様々な人物にもそれぞれ時代と社会が刻まれて、一人一人が生き生きと描かれる。日本統治下での差別、弾圧の恐怖、家父長制の抑圧…一人の台湾女性が経験し、見つめ、立ち向かった歴史。先進民主主義国となった台湾に向けた愛雪のセリフに心震えた。(蓮)

    クァーキーな女たちの伝統 米文学者による日本女性作家論

    小林富久子 著

    • クァーキーな女たちの伝統 米文学者による日本女性作家論
    • 小林富久子 著
    • 彩流社3000円+10%
     アメリカ文学研究者の著者が長年続けてきた日本の女性文学批評をまとめた書。フェミニズム理論を基にする筆者の、性差別、レイシズムなどへの複合的視点からの深い洞察が、読者に共感と思考のリセットを促してくれる。  文学批評といえば、しばしば難解で退屈だが、本書の文体は読みやすく久しぶりに読後の満足感を味わった。筆者によると、海外では村田紗耶香、多和田葉子など現代日本の女性作家は人気があり、quirky(クァーキー)と評されがちだそうだ。quirky(つむじ曲がり?)とは、一見「普通」の女性である主人公が社会の常識・通念に無関心、あるいは家父長制の不条理などに抵抗する姿勢、を指す。円地文子と津島佑子の「山姥」論や在日コリアン作家、韓国のハン・ガンから伊藤比呂美までの、多岐にわたる作品批評は、著者自身が極めて優れたquirkyな存在だからこそ誕生したと私は確信している。フェミニズムや文学とは距離感のある人にもお薦めしたい。(船)
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