家族、この不条理な脚本 家族神話を解体する7章
キム・ジへ 著 尹怡景 訳
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家族、この不条理な脚本 家族神話を解体する7章
- キム・ジへ 著 尹怡景 訳
- 大月書店1800円+10%
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差別は、同じ人が受ける側にもする側にもなるという構図をわかりやすく解説してくれた『差別はたいてい悪意のない人がする』。その著者による待望の新刊。前著同様、多様で平等な社会を目指すための思考が詰まった書だ。
「正常」から外れた家族や、同性カップルなど性的マイノリティをめぐる問題を通し、家族制度・政策などに内包された差別や不平等に言及し、韓国の家族制度を再考している。韓国の事情だが、日本の状況とよく似ていることを改めて感じる。出産は結婚とセットにされがちなこと、望まれない誕生・出産、ひとり親、婚外子などへの差別、性教育へのバッシング等々…。家族関係を通じて行われる階層の世襲問題にも言及し、家族神話の解体や政策改善を説く。
冒頭の同性婚に反対する人たちのスローガン「嫁が男だなんて!」の話から引き込まれ、韓国の歴史や裁判事例も興味深い。保守とリベラルの動きが激しい韓国と本書から考え学ぶことが多い。(ぱ)
お巡りさん、その職務質問大丈夫ですか? ルポ 日本のレイシャル・プロファイリング
國﨑万智 著
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- お巡りさん、その職務質問大丈夫ですか? ルポ 日本のレイシャル・プロファイリング
- 國﨑万智 著
- ころから1700円+10%
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レイシャル・プロファイリング(RP)とは、人種、肌の色、民族的出自、宗教、国籍、言語等を基に、警察官等の法執行官が個人を捜査対象にしたりすること。日本では存在しないとメディアでも警察でも言われてきた、職務質問等を通したRPを2021年から取材し、その実態を明らかにしたハフポスト日本版記者による告発の書。
著者らの報道の後、警察は注意喚起の通達を出すも組織防衛の論理に徹し、ガイドライン策定もない。しかし元警察官のインタビューからは現場で「外国人ふう」=犯罪者予備軍との偏見とそれに基づく職質の奨励が明らかに。さらに47都道府県警察への調査では8割がコピペのような同一の回答だ。
RPを可能にするもの、生み出すものも詳らかにすると同時に、解決の道筋や市民としてできること等、RPについて私たちが知らねばならないことがギュッと一冊に凝縮されている。(傅)
中学生から知りたい パレスチナのこと
向原祥隆 著
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- 中学生から知りたい パレスチナのこと
- 岡真理、小山哲、藤原辰史 著
- ミシマ社1800円+10%
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イスラエルは満洲国でパレスチナ人は満洲の中国人だ、イスラエルはアメリカでガザは米国先住民が押し込められた居留地だ、10月7日のハマスの攻撃はヴェトナム戦争におけるテト攻勢と類比されるべきものだ。本書のこうした説明を読んで、いったい何を言い出すのだ?と思うだろうか?
入植者が先住民を追い出して狭い土地に閉じ込め、生産活動を奪い、歴史の痕跡を消す、その意味で、満洲国とアメリカとイスラエルはつながっていて、世界はそういうふうにできてきた。パレスチナ問題には近代ヨーロッパの500年の歴史の諸矛盾が凝縮されている、「憎しみの連鎖」という説明は歴史を無視している、と岡は言う。
本書は、中学生向けのわかりやすい説明でも中学生が知っておきたい基礎知識でもない。「力をふるってきた側ではなく力を振るわれてきた側の目線」を含んだ新しい世界史を提示し、ガザのジェノサイドの根源を見据えようとするものである。(雪)