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ふぇみんの書評

ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学 新装版

サラ・ロイ 著 岡真理、小田切拓、早尾貴紀 編訳

    ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学 新装版
  • サラ・ロイ 著 岡真理、小田切拓、早尾貴紀 編訳
  • 青土社2600円+10%
2008年末のイスラエルによるガザ攻撃の翌年に来日した、ガザの占領問題を専門にする政治経済学者でユダヤ系米国人の著者の講演と、編訳者らの論考をまとめた書が新装版として緊急出版された。  前半の記述は現在のことかと錯覚する。空疎な「オスロ合意」の下、イスラエルは政治的妥協を恐れて和解を先送りにし、領土拡大に邁進。また日本のパレスチナへの資金投入はその経済基盤を破壊すると断ずる(小田桐)。新装版あとがき(早尾)は、08年攻撃はその後のイスラエルの対ガザ政策の基礎になったと記す。  後半は著者の生い立ちが語られる。ホロコースト生還者の著者の母が戦後イスラエルに移住しないという信念を持ったこと、収容所で死んだ祖父の名を「パレスチナ占領に利用するな」という訴えに納得。現在の占領とホロコーストをどう関係づけるか。  著者と作家・徐京植さんの対談も胸襟を開く内容で必読。今、いかに思考し、行動するべきかを考えさせる。(三)

房思琪の初恋の楽園

林奕含 著 泉京鹿 訳

  • 房思琪の初恋の楽園
  • 林奕含 著 泉京鹿 訳
  • 白水社1800円+10%
ジャニーズの性加害事件等で知られるようになった、大人が子どもを手なづけて性加害に及ぶ「性的グルーミング」。#MeTooが世界を席巻する直前の2017年春に台湾で刊行された本小説は、「性的グルーミング」の実態を、加害者を含め多様な語り手の視点から華麗で精緻な文章で織りなす。  高級マンションに住む13歳の文学好きの房思琪と親友。2人は階下に住む憧れの、妻子ある50代の男性国語教師に作文を習いに行くが、思琪は教師にレイプされる。言葉巧みに「愛」と言いくるめる教師と、誰にも言えず「愛」と信じたい思琪だが、徐々に思琪は壊れていく。親友は嫉妬したが―。抜け出せない複雑な権力関係の在りようや、被害者の自尊心や罪悪感を利用する加害者の卑劣さ。  本作は台湾の法制度を変え、#MeTooが検閲される大陸では今「#房思琪」が性暴力を語るスペースになっている。本書に通底する「裏切ったのは文学そのものか」との問いが刺さる。(ハ)

再生 西鉄バスジャック事件からの編み直しの物語

山口由美子 著

  • 再生 西鉄バスジャック事件からの編み直しの物語
  • 山口由美子 著
  • 岩波書店 2000円+10%
 2000年5月に17歳の少年が起こした「西鉄バスジャック事件」。少年はバスの乗客を包丁で刺し、1人が死亡、2人が重傷を負った。重傷者の1人で、亡くなったのは恩人だったという著者が、事件やその後の経験を振り返り、加害者との面会、子どもの居場所づくりに奔走した日々を記している。  講演会等で著者の話を聞き、被害者であるのに加害者の背景や心の闇に温かく寄り添える著者に尊敬の念を抱いていた。そんな“稀有な人”になる軌跡が本書に書かれている。加害者を殺人者にしたくないと思っていたが、生き残ったことに苛まれ、亡くなった恩人が「幼児室」を開く教育者で、自分の娘も加害少年と同じ不登校であったことから、不登校の子どもや親がほっとできる居場所づくりを始めたという著者。徹底的に自身を見つめ、失敗も隠さない誠実さが胸を打つ。少年刑務所での講話経験などから、加害者から被害者への謝罪にも言及。両者の出会い直しの重要性に大きく頷いた。(く)
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