論点・ジェンダー史学
山口みどり 弓削尚子 後藤絵美 長志珠絵ほか 編著
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論点・ジェンダー史学
- 山口みどり 弓削尚子 後藤絵美 長志珠絵ほか 編著
- ミネルヴァ書房3200円
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歴史は新しくなる。変わる。重層的・多面的になる。新たな研究や発見によって。本書は、前近代から現代まで、ジェンダー視点から歴史学上の113の重要論点と36のコラムを集成した。
選び抜かれた論点は、ペストをはじめとする疾病、同性愛、コロニアリズム、性売買、女子教育、職業、女性参政権、愛と性、家族法、装い、スポーツ、読書、移民などユニークな切り口で、対象地域も日本、ヨーロッパ、アラブ・イスラーム圏、アフリカ、南米、中国、台湾と広範だが、女性の権利獲得運動等が各地域でどのように受容され発展していったかが立体的に分かる。各論点には「当時の議論」と近年の新たな知見や研究でもたらされた「現代の議論」を合わせ、さらなる歴史研究へと読者を導く。「探求のポイント」では映画や文学作品から考察を促し、現代の問題とのつながりや関係性を示唆する。
歴史観・世界観が変わるスリリングな体験に頁をめくる手が止まらない。(花)
- 未来散歩練習
- パク・ソルメ 著 斎藤真理子 訳
- 白水社2100円
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「登場自体が韓国文学界における事件」と評される作家の長編小説。短編集『もう死んでいる十二人の女たちと』に続く邦訳である。
民主化運動を軍が弾圧した光州事件から2年後の1982年に起きた釜山アメリカ文化院放火事件を手掛かりに、作家の私とある女性の交流物語と、82年の釜山に生きるスミとユンミ姉さんの物語が交錯する。読者は最後のページに辿り着くと、「未来とは必ずしも次に起きることではないですし、過去とは必ずしも過ぎ去った時間ではない」と知っているかのように、再び初めから読み始めるだろう。
前著に続き、登場人物たちは歩き続ける。過去に一歩ずつ近づき理解する思索にも、「未来が記憶になるほどまでに生きる」一歩にも思える。歴史も人間も複雑で、真実や本質があるとするなら一歩ずつしか近づけない。来たるべき未来を練習した人に思いを馳せ、歴史と今を切り結ぶ。その練習の先にある未来を、人は希望と言うのかもしれない。(春)
ラジオと戦争 放送人たちの「報国」
大森淳郎 NHK放送文化研究所 著
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- ラジオと戦争 放送人たちの「報国」
- 大森淳郎 NHK放送文化研究所 著
- NHK出版3600円
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満州事変以降、ラジオニュースは国策を「強烈に」反映し、日本放送協会は国策のもと国民を団結させる御用機関となり、職員も尽力した。平和を希求する詩を書いた詩人も進歩的教育思想を身につけた研究者も、総力戦に導くための放送のトップに立つ。それは仕方のないことだったのか。
著者は、これに疑問を持ち、NHK放送文化研究所に残る当時の放送原稿や台本、関連雑誌を掘り起こし、個人蔵の貴重な録音盤を探し出し、当事者のインタビューを重ね、満州事変前から占領期までの放送とそれに関わった人々を描きだす。
今「仮に政府が戦争への道を歩み始めれば、このままではNHKは戦時ラジオ放送の轍を踏むことになる」。NHKで30年余番組制作にかかわってきた著者は「その時自分だったら」と自問し、戦時放送の検証に向かいあう。聴取者として国民は受け身で戦争に駆り立てられたのか、私たちの問いだ。
当時のアナウンスや録音技術の分析も興味深い。(ね)