検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
小野寺拓也 田野大輔 著
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検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
- 小野寺拓也 田野大輔 著
- 岩波書店820円
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度々登場する「ナチスは『良いこと』もした」論争を、ドイツ現代史研究者が検証する、話題の書。
ナチスによる、〈失業率の回復〉〈労働者の余暇支援〉〈アウトバーン建設〉〈母親支援と子ども手当の充実〉〈環境や動物保護〉〈酒・たばこの禁止等健康増進〉などは真実なのか。著者は正確な知識と最新の研究成果を基に、事例と結果を整理し、解釈をして、見解を示すことが専門家の責任だと考えた。
政策の多くはすでに始まっていて、ナチスの独自ではない。優生思想も強く、真の目的も見えてくる。個々の目的や結果が整理されて、どう反論すべきかと考えあぐねていたもやもやが解ける。経済政策の財源は公債発行と迫害したユダヤ人や周辺国からの収奪で、政策からユダヤ人や障がい者・同性愛者などは除外された。
そして、すべては“戦争ができる国になるため”だった。結果だけを見るのでなく、目的や背景を知ることが歴史修正主義に抗することだと、腑に落ちる。(三)
職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム
小林敦子 著
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- 職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム
- 小林敦子 著
- 現代書館2000円
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男はリーダー、女は庶務や秘書など補助的役割…学校や職場等実社会(政治も)に横行する、ジェンダー役割を期待するジェンダー・ハラスメント(GH)。研修等は実施されるが効果は曖昧で、研修を一番受けてほしい人が研修を忌避することも。どうしたらGHの背後にある「潜在的ステレオタイプ」を減らし誰にとっても安全安心な場にするのか。その具体的かつ効果的方法を、心理学研究を元に明らかにした画期的書。
「偏見だ」と指摘するのは、行動変容の効果に乏しいと著者。著者らが編みだしたのは、「ジェンダー」等の語を使わずに、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を減らしてGH防止ができる「認知的複雑性を高めるための研修(CCT)」。効果検証方法もあり、ジェンダー以外のハラスメント解消にも効果があると。活動現場で家庭で、身の回りの現場で目からウロコのプログラムをぜひ実践して!(棠)
あんなにあった酸葉をだれがみんな食べたのか/あの山は本当にそこにあったのか
朴婉緒 著 真野保久 朴二恩 李正福 訳
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- あんなにあった酸葉をだれがみんな食べたのか/あの山は本当にそこにあったのか
- 朴婉緒 著 真野保久 朴二恩 李正福 訳
- 共和国2700円
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本書は韓国の国民的作家の2つの自叙伝小説を新訳・合本したもの。著者は日本による植民地支配下の開城近くの田園地帯で両班の家系に生まれる。ソウルの名門校を卒業し、ソウル大生となるも朝鮮戦争が勃発。戦後は米軍用の購買部PXに勤務し一家を支えた。幼年時代からPXで知り合った男性との結婚までが書かれている。
朝鮮戦争時の過酷な経験は衝撃だ。その時のソウルは何度も統治者が入れ替わり、著者の家族は「アカ」の家とみられ、叔父が処刑され、兄は国軍の銃の誤発射で足を撃たれ、後に亡くなる。残った家族が生き延びる過程をリアルに描写。卓越した記憶力と洞察力、迫力の筆致で読者を引き込む。家族との葛藤や家長的母親との確執、自分の弱さや醜さも驚くほど正直に語る。自己と他者を深く見つめる感受性、混乱の時代を生き抜く女性たちのたくましさに感銘を受ける。強く印象に残る作品だ。(ぱ)