われらはすでに共にある 反トランス差別ブックレット
反トランス差別ブックレット編集部(青本柚紀ほか) 編
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われらはすでに共にある 反トランス差別ブックレット
- 反トランス差別ブックレット編集部(青本柚紀ほか) 編
- 現代書館1000円
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2022年11月に発売された反トランス差別に関する自主制作ZINEの増補版。トランスジェンダーへの差別・排除言説が苛烈になる現状に鑑み緊急出版された。ZINEは入手しづらかったので、こうして商業出版されるのは喜ばしい。
読みやすい薄さながら、そこには、差別的言説への批判や怒り、叫び、抵抗の言葉のほか、トランスの人々の「複雑で多様な現実の生のありよう」を記したエッセイや詩作に溢れる。声のこと、トランスであることを熊や鹿に例えるもの、トランスと犬との物語…。「トランス」はアンブレラ・ターム(異なるが共通点で結ばれるグループ)なので、セックスワーカーもいれば、少しホルモン注射をする人もいて、書き手も実に多様だ。
巻末の映画・ブックガイドも充実。中には2003年刊行の本も。そうなのだ。今のトランス差別の嵐で初めてトランス本を手に取るなら、それこそがシスジェンダー中心社会の証左。われらはすでに共にあるし、あってきたのだ。(黄)
エトセトラVOL.9 NO MORE 女人禁制!
伊藤春奈(花束書房) 特集編集
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- エトセトラVOL.9 NO MORE 女人禁制!
- 伊藤春奈(花束書房) 特集編集
- エトセトラブックス1400円
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女人禁制とは、女性が立ち入れない(とされる)山の「結界」ばかりではない。本書からたちあがる問題に目を見張る。
公娼制の下、娼妓は集娼地以外へ立ち入るには許可が必要だった。女性専用車とは、「社会は女性の安全が当たり前に保証されていないことの裏返し」。キリスト教界では“異端”という言葉でマイノリティが排除され、政治の世界は男性世襲という女性排除が続く。仏教界でも、祭でも、部落解放運動の中でも、女性は脇役を強いられてきた。源氏物語に登場する性行為には認知のゆがみがあり、それは女人禁制につながるということも。こう並べると、いまだ女への、人々が内面化してしまっている禁制のなんと多いことか。
多くの背景にあるのは、「女は穢れ」意識。こんな、曖昧で抽象的な思考で男たちは結界を作り、男性中心主義を守ってきたのだ。私たちは女の立入禁止領域をどう崩していくか。伝統も慣習も時代と共に変わるものだから。(三)
産婦人科 #MeToo
イ・ウネ 著 大島史子 訳
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- 産婦人科 #MeToo
- イ・ウネ 著 大島史子 訳
- アジュマブックス1200円
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本書の原題は『レズビアンの産婦人科』。韓国の20代のレズビアンとバイセクシュアルたちが、産婦人科について赤裸々に語っている。「産婦人科」という名からして、レズビアンの人たちにとっては行きづらい場所であると思うが、本書の彼女たちの視点や語りで、産婦人科診療の不思議さが露わになった。それは同じ名の科がある日本にいるすべての女性に重なる問題であると認識させられた。
たとえば、産婦人科で聞かれる「性経験の有無」のおかしさ。レズビアンにとって答えづらく、ある・なしで、検査や治療がきちんと受けられなくなることがある。もし「男性器」や「異物」の挿入の有無が重要な変数なら、具体的に質問すべきと訴える。韓国も日本も「処女膜」幻想があり、産まない(産めない)女性への差別もあり、「産婦人科」という名も問題とわかる。
異性愛男性中心社会の医療への痛烈な批判は痛快。彼女たちの率直な語りが魅力的で、セックス談義も心地よい。(ん)