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ふぇみんの書評

戦争と文化的トラウマ 日本における第二次世界大戦の長期的影響

竹島正、森茂起、中村江里 著

    戦争と文化的トラウマ 日本における第二次世界大戦の長期的影響
  • 竹島正、森茂起、中村江里 著
  • 日本評論社3200円
 先の大戦が日本社会に今も及ぼしている影響を、歴史学、社会学、精神医学、臨床心理学、ジャーナリズム等が協働したシンポジウムを元に詳らかにした書。  軍人の妻の立場の法的議論、戦死者や遺骨の扱われ方など新たに光を当てる論点のほか、「文化的トラウマ」(社会のトラウマ記憶の言説の何を受容し抑圧するかを決定づける)、「加害者のトラウマ」、「沈黙の共謀」という視座の分析・研究が印象深い。個人的にも社会的にも、加害行為も含めたトラウマが聞かれず、沈黙を強いられることが、戦後の高自殺率や、「家族と情緒的絆を結べない『不在の父』」、トラウマ反応の世代間連鎖につながると。歴史修正主義は、トラウマへの防衛反応=「否認」ではないか。さらに日本がトラウマから癒えることが隣国との関係のためにも良いとの海外研究者の指摘も鋭い。  戦争の被害概念を覆し、その傷跡の全貌をあぶり出す画期的書。私たちはまだまだ戦争を分かっていないし、知らないといけない。(榜)

沖縄の生活史

石原昌家、岸政彦 監修 沖縄タイムス社 編

  • 沖縄の生活史
  • 石原昌家、岸政彦 監修 沖縄タイムス社 編
  • みすず書房4500円
復帰50年を目前にした2021年、沖縄タイムス社が聞き手100人を公募し、主に70~90代の語り手100人の「沖縄の生活史」をまとめる大プロジェクトが始まった。本書は1人分1万字、850頁に及ぶ壮大な聞き書き集だ。  朝ドラに登場するような身勝手なニーニー(兄)が生活をかき回していたこと。復帰前は1ドルあれば那覇で映画を見たり遊べたこと。与那国島には大勢の台湾人の下宿人がいたり、敗戦直後は日台間の貿易の横流しがあったこと。台湾での空襲被害経験。復帰運動のフランスデモがデートの場だったこと。1950年頃の那覇・国際通りの裏には人骨の山があったこと…。  ひもじさの中でみつけた生活の楽しみ、戦争体験や家族史、仕事の移り変わりなどが、聞いたままの言葉で綴られ、臨場感がある。まさに「記憶の玉手箱」(石原)だ。必ず復帰の日の記憶を聞く約束以外は、“それぞれの人生の軌道を生のままで”残そうとした。面白く、深く、際立つ人生に引き込まれる!(三)

越えられなかった海峡 女性飛行士・朴敬元の生涯

加納実紀代 著

  • 越えられなかった海峡 女性飛行士・朴敬元の生涯
  • 加納実紀代 著
  • インパクト出版会3000円
待望の復刊だ。著者も生前、1994年発行の元本の復刊を希望していたという。植民地下の朝鮮・大邱出身で、日本で操縦士資格を取得した朝鮮半島初の女性飛行士、朴敬元(1901~33年)の評伝。1933年8月7日、「日満親善皇軍慰問飛行」で羽田から飛び立つが、悪天候で伊豆半島の山に墜落し死亡した朴の生涯を、小説の形で描いた渾身の一冊だ。  著者は朴の足跡を訪ね、朴の生年への疑問や幼名から想像を膨らませ、膨大な資料を読み込み、歴史の中に朴の人生を埋め込む。看護師として働いた資金で日本飛行学校に 入学し、飛行士として力をつけ、女性差別を訴える朴を、〈逸脱〉した女として力強く描く一方、軍国日本や“内鮮満一体化”のチアガールのようにもてはやされていく悲哀も織り交ぜる。祖国では「日本に魂を売った女」として朴の評価は低い。日本統治下の朝鮮で生まれ、広島で被爆した著者の「加害と被害の二重性」を見つめる深い思考をかみしめる。(ぱ)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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