埋没した世界 トランスジェンダーふたりの往復書簡
五月あかり、周司あきら 著
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埋没した世界 トランスジェンダーふたりの往復書簡
- 五月あかり、周司あきら 著
- 明石書店2000円
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「男性」から「女性」に同化したノンバイナリー(性自認が「男」「女」に当てはまらない)のトランスジェンダー・あかりと、「女性」から「男性」に同化したトランス男性のあきらによる往復書簡。「埋没」とは、トランスと知られずに望む性別で認識され生活できる状態。埋没を果たした2人の語りに、いい意味で大きく裏切られた。
そもそも2人には、移行した性別への性同一性はなく、そこに「体と心の性が違う」などのシスジェンダー(生来割り当て性別に違和がない)に都合のいい「トランスの物語」はない。あるのは2人の存在まるごとのリアル。シスとトランスを「解体」してみせ、「性別」とは何か、シスは怠惰に「性別」に従っているのではと鋭く問い、揺さぶる。さらにAセクシャル(無性愛)のあかりと、パンセクシュアル(どの性別にも惹かれる)のあきらは、赤裸々に身体、性欲、愛について語るが、驚く展開も-。問われるのは、語るべきはシスだと視点の大転換をもたらす書だ。(孟)
- 李(すもも)の花は散っても
- 深沢潮 著
- 朝日新聞出版1800円
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李王朝の後継者・李垠と政略結婚した日本の元皇族・梨本宮方子(まさこ)。母親が後妻として入った家で女中のようにこき使われ、母親が亡くなると虐待され、追い出されるマサ。戦前から戦後の日本と朝鮮半島を舞台に、社会の最上級と最底辺にいる2人の女性の生涯を描く。実在の人物と架空の人物、実際の事件とフィクションが縦横無尽に織り交ぜられ、エンタメ感満載で引き込まれる。
“日鮮融和”の使命感をもち、垠との関係や世継ぎへの重圧に苦しむ方子。マサは独立運動家の朝鮮人男性とそのいとこの女性と親しくなって、朝鮮半島に渡り、朝鮮人を苦しめる加害国の日本人であることに苦悩する。三・一独立運動、関東大震災朝鮮人虐殺、敗戦と解放、朝鮮戦争など、激動の日本と朝鮮の中で、国に翻弄され、身分・国籍の喪失、“立場の逆転”など様々な困難に遭う人々を活写する。
日韓の歴史の流れを追いながら、たくましく生きる女性たちの熱い物語に浸れる傑作だ。(り)
子どもたちの命と生きる 大川小学校津波事故を見つめて
関口竜平 著
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- 子どもたちの命と生きる 大川小学校津波事故を見つめて
- 飯考行 編著
- 信山社2600円
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東日本大震災の大津波で石巻市立大川小学校では74人の児童と10人の教師が亡くなった。学校や石巻市教育委員会による説明に納得できず、遺族の一部が裁判に訴え、仙台高裁が学校と市教委の「組織的過失」を認める画期的判決を下した(最高裁で確定)。
本書の前半では大川小学校の事故と裁判の経緯、遺族の思い、映画『生きる―大川小学校 津波裁判を闘った人たち』の製作にあたっての監督の意図などが記される。津波・学校事故を考える章では、七十七銀行女川支店や日和幼稚園などの津波事故やいじめ自殺などの学校事故にも触れる。大川小学校卒業生によるネットワーク活動などを紹介、最終章では、災害に備えて、仙台高裁の判決をどう活かすのかが具体的に展開される。
今後、災害に見舞われる可能性はどこにでもある。「学校が子どもの命の最期の場所になってはならない」という視点で、この経験と判決を活かす取り組みが必要だと本書を読んで強く思う。(ね)