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ふぇみんの書評

津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後 戦争と福祉と優生思想

佐藤幹夫 著

    津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後 戦争と福祉と優生思想
  • 佐藤幹夫 著
  • 現代書館3200円
津久井やまゆり園事件発生から7年。加害者・植松聖に死刑判決が下り裁判は一旦終結した(その後植松死刑囚が再審請求)。しかし裁判だけでは事件がなぜ起こり、なぜ「植松聖」が生まれたのかが分からない。養護教諭を経て今は雑誌を編集・発行する著者は、この事件に対し思想的・歴史的・社会的考察を重ね、その深層に迫る。  植松の凶行の様子がまるで「戦場の兵士」だと感じた著者。事件に「戦争と福祉と優生思想」が連動していると考え、兵士・植松が作られる8つの仮説プロセスを立てる。それには新自由主義経済や福祉の内実も作用する―。著者の考察は、植松が決して突如生まれた怪物などではなく、極めて歴史的・社会的産物であることを示す。  深層を理解できなければ事件は特異なものとされ、忘れさられてしまう。著者はそこに個として徹底的に抗い、記憶・記録するために思考を続けたのだ。(琅)

新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか

田嶋陽子 著

  • 新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか
  • 田嶋陽子 著
  • KADOKAWA 2200円
本書は、『突然炎のごとく』(1962年/フランソワ・トリュフォー監督)や『秋のソナタ』(78年/イングマール・ベルイマン監督)等、よく知られた映画10本を例にとり、ヒロインの描かれ方を分析した内容である。91年発行の『フィルムの中の女―ヒロインはなぜ殺されるのか』(新水社)の復刊であるが、取り上げている作品のいずれもの〈ヒロインが殺される〉わけではない。『リアンナ』(83年/ジョン・セイルズ監督)では女性間の愛情をテーマに論じ、『エミリーの未来』(84年/ヘルマ・サンダース=ブラームス監督)や『愛と追憶の日々』(83年/ジェームズ・L・ブルックス監督)では母娘の相克が描かれる。  〈近しい人物との相克を通して自らを発見する女性たち〉がテーマの文章が多いが、『エミリーの未来』を論じた文章中の〈女だけが二者択一を迫られる〉や、〈傷を癒してくれるのは信頼できる仕事仲間〉に共感を覚える人は多いだろう。(理)

土の声を 「国策民営」リニアの現場から

信濃毎日新聞社編集局 著

  • 土の声を 「国策民営」リニアの現場から
  • 信濃毎日新聞社編集局 著
  • 岩波書店2400円
リニア新幹線の大工事が進む長野県飯田下伊那地区を中心に、地域紙の記者たちが足を運び反対・賛成の背景は何なのかと取材した連載のまとめ。駅誘致のために、ここで死ぬと決めていた家が無くなるやるせなさ、谷あいの村で起きている静かな分断、本来掘る前に決めておくべきトンネル掘削の残土処分場、多額の税金を投じたのに外れてしまった地域活性化の目論見、労災事故を発表しないJR東海の企業姿勢、原発1基分の電力消費…。読むほどに、リニア計画に納得がいかなくなる。  取材では、まず記者が取材対象からテーマへの賛否を問われることが多かった、レアな事態だったそうだ。国が計画し資金を貸し付ける「国策」なのに、建設主体が民間のため多くの規制の埒外になる「民営」。まるで罠にはまったようだ。いったい誰のためのリニア? 「山や谷には人の記憶、地域の歴史や文化が刻まれている」。“土の声”、すなわち地域の人々の声に耳を傾ける時ではないか。(三)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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