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ふぇみんの書評

国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に

安田菜津紀 著

    国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に
  • 安田菜津紀 著
  • ヘウレーカ1900円
フォトジャーナリストの著者は、中学生の時立て続けに、離婚で別々に暮らしていた父を自死で、異母兄を過労死で失った。その後16歳のパスポート申請時に戸籍を見て、初めて父が在日コリアンであることを知る。なぜ父は出自を語らなかったのか-。本書は、著者が初めて知る自分と家族のルーツを辿り、亡き父や兄、その家族と出会い直すことを通じて、生き方を模索する道程が描かれる。  「家族とは何か」を追究していた著者は、貧困、災害、紛争、ヘイトの現場を取材し、そして在日コリアンの苦難の歴史と現状を知る中で、「故郷とは何か」、さらには「ルーツとは何か」を模索するように。韓国内の親類を探し出したが、唯一生きた道のりが分からないのが、女ゆえに記録がない祖母。著者は「置き去りにされがちだった人々の」「女性たちの声」を刻みたいと決意し、父や兄はどうしたら生きられたのかと問う。著者の社会を見据える目は、どこまでも鋭く力強く、そして温かい。(潤)

エンタイトル 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか

ケイト・マン 著 鈴木彩加、青木梓紗 訳

  • エンタイトル 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか
  • ケイト・マン 著 鈴木彩加、青木梓紗 訳
  • 人文書院2800円
著者は#Metooの哲学者と呼ばれるコーネル大学教員。エンタイトルとは資格のことだが、原題のentitledには「特別な資格を与えられているかのように尊大な態度の」という意味がある。男性が抱く、自分に当然与えられている特別な資格という勘違いを表現している。これらの資格とは、セックス、賞賛、家事労働、身体の自律、権力などで男性が女性に求めるものだ。  前著の『ひれふせ、女たち』では、ミソジニーを家父長制の「法執行部門」と概念化、単なる心理的偏見などではなく、男性優位の秩序から逸脱する女性を罰するものとした。続く本書では、ミソジニーが守る家父長制的な規範に焦点を当て、それが資格(entitlement)であるとして、ミソジニーの概念をアップデートしている。本書は、マンスプレイニング、トランプ前米大統領の性加害、ミソジニーから起きる女性殺しなどアメリカの社会問題を、エンタイトルをキーワードに解き明かす。(公)

生命の倫理学 シリーズ 大学生の学びをつくる

三崎和志、小椋宗一郎、林千章ほか 著

  • 生命の倫理学 シリーズ 大学生の学びをつくる
  • 三崎和志、小椋宗一郎、林千章ほか 著
  • 大月書店2000円
本書は妊娠中絶と出生前・着床前診断、生殖医療、脳死と臓器移植、終末期医療、安楽死、優生政策などにまつわる倫理的問題を扱う。哲学者や研究者、当事者などの言葉を紹介し、具体例を挙げてわかりやくまとめている。  ドイツナチス政権が行った障害児・精神薄弱者を殺害する政策、日本のハンセン病患者の強制隔離や旧優生保護法のもとでの不妊手術など、各国における優生政策の歴史も解説されている。特に興味深かったのは、福祉国家として知られる北欧の国でも、“手厚い社会保障を実現するために”国民の数を抑えなくてはという考えから断種法が実施されていたという事実だ。社会の価値観は歴史や社会の中で変化していくが、市場競争を重視する新自由主義と優生思想が親和的であることが提示され、あらためて注視したい。女性・障害者・病気をもつ人などの視点を取り入れながら、自己決定や生と死、人間の尊厳を考える上で、非常に役に立つテキストだ。(う)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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