市民的抵抗 非暴力が社会を変える
エリカ・チェノウェス 著 小林綾子 訳
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市民的抵抗 非暴力が社会を変える
- エリカ・チェノウェス 著 小林綾子 訳
- 白水社2800円
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「人口3.5%が立ち上がれば社会は変わる」のルールで知られる著者が、膨大な事例研究に基づき、同ルールのほか非暴力の市民的抵抗を多角的に論じた。非暴力は「効果がない」「弱々しい」イメージがあるが、1900年から2019年の間、どんな強権政治の下でも、非暴力革命は50%以上が成功し、暴力革命はわずか26%の成功。非暴力は女性をはじめ多くの支持が得られ、政権変更後の体制も、より民主的になるという。
本書は、非暴力の市民的抵抗が成功する条件(強い組織力、代替機構・経済の展開等)、市民的抵抗の中で生じる暴力、抗抵運動に対する弾圧・抑圧への対処法等を、質疑に答える形で展開。効果的なのはストライキなどの非協力行動と多様な行動の組み合わせ、近年抵抗の成功率が低いのはデモやデジタルでの動員に頼りすぎるのが原因、為政者側の「スマートな抑圧」に注意…の指摘は示唆に富む。私たちの闘い方を考える上で今後ますます必要な書だ。(傳)
自転車と女たちの世紀 革命は車輪に乗って
ハナ・ロス 著 坂本麻里子 訳
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- 自転車と女たちの世紀 革命は車輪に乗って
- ハナ・ロス 著 坂本麻里子 訳
- 発行 Pヴァイン 発売 日販アイ・ピー・エス 2700円
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今でこそ自転車はみんなのものだが、19世紀後半は、自転車に乗る女たちは奇異の目で見られた。本書は主に英米の事例を取り上げる。サドルにまたがることは性的に放埒だなどと、女の行動を狭める言説が流布。動きにくい服装にも縛られた。20世紀になっても非難は続いたが、自転車は自由や可動性や自己決定権を与え、女たちは革命的な力を得た。グループで乗ればシスターフッドも生まれる。
自転車で大陸横断や世界一周を企てた女は、妻や母役割だけが女の存在意義ではないと主張する。英・女性参政権運動のE・パンクハーストの娘たちが政治活動に利用し、第2次大戦中のレジスタンスの女たちは自転車に乗ってビラを運んだ。ボーヴォワールも自転車旅行を好んだという。現代も、難民申請中の女たちのエンパワーのために自転車を教える活動が紹介される。性暴力には「ストリートは私たちのもの」と訴えて走る。自転車には、昨日とは違う世界観が詰まっている。まさに革命だ。(三)
江戸のキャリアウーマン 奥女中の仕事・出世・老後
柳谷慶子 著
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- 江戸のキャリアウーマン 奥女中の仕事・出世・老後
- 柳谷慶子 著
- 吉川弘文館1800円
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ドラマで見る、江戸城大奥に居並ぶ奥女中たち。だが将軍だけでなく、大名の江戸屋敷や居城には、女中が働く「奥向き」があった。女中たちは当主一族の暮らしを支え、育児・介護などのケア労働に従事したうえ、交際という形で将軍家や他家との良好な関係の維持を担った。交際担当は、文例を参考に当主夫妻に代わって手紙を書き、進物をする。女中には俸給があり、出自に関わらない出世の道もあった。能力次第では80歳代まで活躍した「官僚」だった。
著者は近世武家女性の研究者であり、本書も、仙台藩伊達家の幕末まで13代260年に及ぶ歴史を対象とした実証研究を基にする。史料調査から浮かび上がる、伊達家存続のために工夫・苦闘し続ける「奥向き」の歴史は、地道だが地味ではなく、大河ドラマを見るような面白さだ。
この20年ほどで、ジェンダー視点から新たな史料も発見され、武家の「奥向き」研究は進展著しい分野だという。まだまだ「日本史」は新しくなる、と確信した。(雪)