女の子と公的機関 ロシアのフェミニストが目覚めるとき
ダリア・セレンコ 著 高柳聡子 訳
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女の子と公的機関 ロシアのフェミニストが目覚めるとき
- ダリア・セレンコ 著 高柳聡子 訳
- エトセトラブックス2000円
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1993年生まれのロシアの作家、詩人であり、フェミニスト、反戦活動家でもある著者が、ウクライナ侵攻前夜に書いた小説。プーチン政権下で、美術館や図書館など「公的機関」で、「国の道具」にされてきた非正規雇用の「女の子」たち。経験や年齢などあらゆる多様性を排除されて「女の子」と一括りにされ、セクハラやあらゆる面倒事と難事が押しつけられる理不尽な日々を通して、公的機関の暴力と、女の子たちが密やかに燃やす変革への情熱を、詩的な表現で描く。
女の子たちは「しょっちゅうひとつになり、たくさんの手足がある」ように自分を感じ、政治がわからないふりをしつつ、仮病を使ってデモに行く。子どもを産まず「私たちは、最後の女の子」と静かに宣言し、呼びかける。「親愛なる女の子たち、私たちには決死のストライキが必要だよ」と。
著者はあらゆる暴力が戦争に結びつくと喝破。ロシアと瓜二つの今の日本の状況下で、女の子たちと著者の言葉が、逐一刺さる。(州)
目取真俊の小説は、身体のどこか奥の方に深々と刺さって決して抜けない大きなトゲだ。読むたびにそのトゲの痛みが耐え難い。本書に収められた5篇の小説は、どれも沖縄の人々が体験した戦争の苦しみの記録だ。中国での従軍体験の非道が、スパイ嫌疑で日本軍に斬り殺された父が、家族のために貝採りに行った海で溺れて死んだ弟が、目の前に立ち現れてくる。それに直面した子どもや家族は、一生消すことのできない傷を心に負って生きるのだ。さらに読者が突きつけられるのは、その戦争体験と地続きの場所に沖縄と日本の現在があることだ。島をあげての反対を無視して配備されたオスプレイが高速道路の上を飛び、県民投票で示された反対を踏みにじって続く辺野古埋め立て工事が描かれる。
折しも、2024年度から使用する小学6年の社会科教科書で「集団自決」に軍の関与を示す記述がなかったことが報じられた。石に刻むように沖縄の記憶を書き留めた今読むべき一冊。(公)
ハンセン病家族訴訟 裁きへの社会学的関与
黒坂愛衣、福岡安則 著
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- ハンセン病家族訴訟 裁きへの社会学的関与
- 黒坂愛衣、福岡安則 著
- 世織書房3000円
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500人以上のハンセン病罹患者や家族から聞き取りをしてきた社会学者が、「家族訴訟」で提供した意見書等の記録。治療薬普及後も50年以上続いた国の隔離政策が、罹患者本人のみならず家族にも苛酷な被害をもたらしたことを、「社会学者としての責任において」法廷でつまびらかにした。
国の隔離政策が始まるまでは、罹患者は忌避されはしても自律的生活ができていたのに、「山の奥の奥まで」の徹底した摘発と隔離が家族を引き裂き、罹患者の家を「真っ白になるほど」消毒する等で家族への差別・偏見を激化させた。黒坂は意見書で、罹患者家族だという本人の自覚の有無および周囲の認識の有無の4類型のいずれでも差別・偏見の被害が生じると分析。証人尋問では裁判所の「反訳書」(=文字起こし)の誤記・漏れ等を、聞き取り調査を重ねた専門家として修正している。
〈現場の問題意識〉に直に触れてきた学者たちの責任感と熱意に敬服する。(葉)