ポリーヌに魅せられて
- 小林緑 著
- 梨の木舎2200円
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ポリーヌ・ガルシア・ヴィアルド。200年前、フランスで生まれ、世界的に活躍した歌手・作曲家だが、その名を知る人は今は少ない。ポリーヌは16歳で歌手デビューし、オペラ歌手としてその名を馳せ、ショパンのピアノ曲を自ら歌曲に編曲しては、ショパンの伴奏で歌い、ジョルジュ・サンドから「音楽の理想を司る女司祭」と讃えられた。ツルゲーネフの台本に作曲したオペレッタはブラームス指揮で初演。古典派風にも前衛風にも作曲様式を使い分け、古今東西にわたる音楽的教養と実力で芸術文化サロンを主宰するスーパースターだったが、その音楽的業績は忘れさられていた。女性であるがゆえに。
著者は音楽界のジェンダー不平等をただすべく、彼女の確かな足跡を浮かび上がらせ、フランス2月革命期(1848年)を生きた人として、共和制を支持する明確な社会的意思にも言及する。ここに19世紀を堂々と生きた1人のプロフェッショナルの女性がよみがえる。(真)
- 破果
- ク・ビョンモ 著 小山内園子 訳
- 岩波書店2700円
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韓国発のノアール小説。65歳の誕生日を迎えたばかりの爪角(チョガク)は、一見小柄で平凡な出で立ちの女性だが、ベテランの殺し屋だ。「守るべきものはつくらない」が信条の爪角だが、体の衰えとともに、心にたわみが出始める。捨て犬を拾ったり、任務の途中で人を助けたり…。極めつけは過去に捨て去ったはずの「熱情」すら感じる。そんな中、因縁の相手との最後の死闘を繰り広げるが―。
スローモーション映像のように鮮やかに浮かぶ情景描写と、爪角の絶妙な心理描写が絡まり合い、ページをめくる指が止まらない。何より、爪角が魅力的!老いとプロ意識の間で、そして突然芽生えた感情に苦悶し葛藤する姿。朝鮮戦争後の幼少期から殺し屋になるまでは、貧困や女であることとも闘った。本作は2013年に発刊されたが、韓国内の#MeTooを経て、SNS上で爪角のキャラクターに注目が集まり改訂版刊行となった。「老女」への先入観を覆す爪角にぜひ出会ってほしい。(孟)
主婦である私がマルクスの「資本論」を読んだら
チョン・アウン 著 生田美保 訳
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- 主婦である私がマルクスの「資本論」を読んだら 15冊から読み解く家事労働と資本主義の過去・現在・未来
- チョン・アウン 著 生田美保 訳
- DU BOOKS 発行 ディスクユニオン 発売2200円
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原題は「あなたが家で遊んでいるというウソ」。2人目を妊娠し、会社をやめ、出産後も子育てに専念していた著者は「家で遊んでいる」とあちこちから言われ衝撃を受ける。なぜ「家事労働」は、労働と見なされず、「主婦」は社会的評価が低いのか―。『資本論』などさまざまな本をジェンダー視点で読み解き、資本主義や社会の構造、女性に対する抑圧などをユーモアを交えながら紐解く。
一握りのホワイトカラーを支えている3大要素は、女性・自然・植民地。資本主義が猛威をふるい、お金の権勢が強まれば、家事労働者の地位は下がる。資本主義社会は巧妙に家父長制を利用し、女性のケア労働を搾取していると著者は解説する。著者が住む韓国同様、家父長制が強く、家事労働の評価が低い日本。育児・介護のケア労働を家族だけに押し付けず、国家レベルで新たに組織され配分されるべきという主張に同感。(ん)