このからだが平和をつくる ケアから始まる変革
安積遊歩 著
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このからだが平和をつくる ケアから始まる変革
- 安積遊歩 著
- 大月書店1600円
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重度の肢体不自由、知的障害、精神障害を持つ人の地域生活を支援する重度訪問介護制度(重訪)。福祉制度の観点から論じるものは多々あるが、本書は、障害者自立生活運動に長く携わるピア(同じ立場の)カウンセラーの著者(本紙でも連載執筆)が、重訪の持つ人類にとっての画期的意義や、重訪を使って障害者が地域で当たり前に暮らすことの意義を説く。
重訪成立の背景に、障害者らの生存をかけた血のにじむ闘争があった。先進的なのは「見守り」を介助に含めた点。命を静かに見守ることで、障害者は行動の自由、介助者は生活保障を得る。著者は、重訪が平和と自由を保障する、「分かち合いに基づいた社会」を創出する、と。そして「ひたすらに争えない身体を持つ」著者ら障害者が地域社会のまん真ん中に暮らすことが、子どもや高齢者を含めた全ての人を包摂する社会になる、と。優生思想、格差、暮らしの軍事化が進む今こそ、著者の言葉が多くの人に届いてほしい。(汪)
13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし
葛西リサ 著
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- 13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし
- 葛西リサ 著
- かもがわ出版1600円
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住居の課題は、さまざまな福祉施策の中でも後回しにされてきたのではないだろうか。たとえばシングルマザーの支援策なら、まずは経済的支援、そのための就労支援、そして子育て支援、そして気づくと住居はとりあえず雨風しのげる寝場所さえあれば、という具合だ。しかし、本書でも言われるように、人間が命をつなぐために欠かせないものが住居ではないか。それなのに、私たちはあまりにも住居について無頓着すぎた。
「13歳から考える」とあるが、おとなが読んでも、知らなかったことや改めて考え直すことがたくさん詰め込まれており、単に住まいという器の話ではない。どのように住むのか、誰と住むのか、ひいてはいっしょに住む「家族」とは何かまで幅広く、人としての権利を住居に乗せて語りつくす。これを13歳で読んでいたなら、もっともっと政治や社会について考えを深めていたに違いない。(J)
- 増補版 戦争と建築
- 五十嵐太郎 著
- 晶文社2400円
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大陸の都市では、外敵への備えとして古くより壁が築かれた。大砲の出現で壁は高さから堅固さへと変化するが、航空機が出現すると完全に無力化する。軍事施設だけでなく、工場や発電所、鉄道などのインフラ、戦意喪失を狙った市街地への無差別爆撃へとエスカレート。空爆に備えることを余儀なくされたことで、空からの視点が加わるなど、都市デザインはいつも戦争と共にあったと著者は説く。
21世紀になり、「テロとの戦い」の時代が到来。内包する敵に対処するため、壁に代わってセキュリティという名の監視システム網が敷かれた。そこにウクライナ戦争勃発である。原発も軍事拠点も市民生活のすぐ隣だ。
本書は空爆よけに屋上をカモフラージュする建築など、多くの事例と写真が載る。これからの都市と建築はどうあるべきか。建築は人と人をつなぐことであり、日常生活を維持させる建築は争いへの抵抗になる、という著者の言葉が、戦争と建築を考えるヒントを与えてくれよう。(た)