本書でいう男性政治とは、「男性だけで営まれ、新規メンバーも基本的には男性だけが受け入れられ、それを当たり前だと感じる政治のあり方」と定義、さらに「健康で、異性愛で、ケア責任を免れていることが参入の条件」と著者は1ページ目で鋭くピンを刺す。
思えば、テレビニュースで映る日本の政治の現場はいつも男、男、男だ。こんな男だらけの政治が、なぜまかり通るのだろうか。本書は、日本で女性議員が少ない理由を説き、その結果のガラパゴス的状況をつぶさに資料で分析する。さらに、女性議員をどう増やしていくべきかを展望し、男性政治を打破する鍵は、「ジェンダー平等と多様性」であり、「民主主義の刷新とともにある」ものと提言している。
内容は、政治風土、地方政治、選挙文化、国際状況、弱者男性まで詳しく網羅的に触れるため、新書一冊300ページ弱だが、読了しての重量感は半端ではない。バックラッシュやクオータ制批判への反論も明解だ。(公)
シモーヌ VOL.7 生と性 共存するフェミニズム
シモーヌ編集部 編
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- シモーヌ VOL.7 生と性 共存するフェミニズム
- シモーヌ編集部 編
- 現代書館1500円
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生きる根幹を成し、国家が介入してきた生と性において、「ともに生きるフェミニズム」であるにはどうしたらいいのか。“フェミニズム”を根底から問い直し、更新し、構築し直す作業を促される。
例えばリプロダクティブ・ヘルス・ライツ。旧優生保護法改悪阻止運動の中から生まれた女性運動が、男性障害者からの突き上げや、強制不妊手術される女性障害者と出合い、どう変化したか。現在リプロはインターセクショナリティ(差別の交差性)の視点から、性と生殖を取り巻く社会構造の変革―リプロダクティブ・ジャスティス運動となったが、私たちの運動は? セックスワーカーについては、性売買の歴史を辿り、近代日本の廃娼運動に見る優生思想と純潔/血主義の差別性を指摘した上で、今のコロナ給付金からのセックスワーク排除や偏見、AV新法を結ぶ。
トランスジェンダー排除、新優生学…自分自身と運動のあり方を絶えず変革する必要性を強烈に突きつけられた。(州)
夜明けまえ、山の影で エベレストに挑んだシスターフッドの物語
シルヴィア・ヴァスケス=ラヴァド 著 多賀谷正子 訳
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- 夜明けまえ、山の影で エベレストに挑んだシスターフッドの物語
- シルヴィア・ヴァスケス=ラヴァド 著 多賀谷正子 訳
- 双葉社2200円
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著者は少女時代に身近な大人から性虐待を受け、長く被害に混乱し続けた。南米・ペルーで生まれ育ち、レズビアンの自分を受け入れない社会や抑圧的な父親から逃れるため渡米。トラウマから、飲酒やセックスに依存する日々を送る。そんな生活から立ち直り、自分を見つめ直すきっかけが、登山だった。「カレイジャス(勇敢な)・ガールズ」と名付けたNPOを設立し、性暴力からのトラウマを抱える少女たちと共に挑む。5人の少女を伴って、女性を差別する社会システムに抗い、勇気を振り絞ればできると信じてエベレストのベースキャンプ(標高5300m超)へ向かう。生まれたシスターフッドに心が熱くなる。その後、著者は登山隊と世界最高峰を目指して…。
高い山ではなく、心の中の山を越えることで、何もできない女だと思わされていた自分が変わっていく。「一歩踏み出して、ぜひあなたの山に登ってほしい」という著者からのメッセージを広げたい。本書は近々映画化の予定。(三)