自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向
安藤優子 著
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自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向
- 安藤優子 著
- 明石書店2500円
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日本はなぜ女性議員が少ないのか―。自民党の「女性に対する認識」が、女性の政治参画への機会を奪う根本原因との視点に立ち、認識がどうつくられ、再生産されたかを考察している。男性優位社会において女性を個人として認識せず、「イエ」に属する妻・母・娘という「従属的」な存在と見なすことを「イエ中心主義」とし、これが自民党の政治指向だとした。著名なキャスターの論文はわかりやすく、面白かった。
1970年代の「日本型福祉社会論」は、福祉予算削減のため、女性を「家庭長」として位置づけ、家族や地域による自助社会を目指す。その自民党の経済的戦略は再生産され、継続された。血縁継承や個人後援会などによる候補者選定における女性側の不利にも言及。自民党衆議院議員のキャリアパス分析からも“普通の”女性が議員になれない環境や構造を問う。テーマが自民党と旧統一教会の共通認識にも関連すると考えると興味深く、いま読む意義が高い。(よ)
アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉
香月孝史、上岡磨奈、中村香住 編著
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- アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉
- 香月孝史、上岡磨奈、中村香住 編著
- 青弓社1600円
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私は「推し活」をするフェミニストだ。近年「推し活」が推奨すらされるが、自分とフェミニズムとを切り離してきた。アイドルをめぐる問題(異性愛主義、エイジズム、ルッキズム、商業主義)はもちろん、生身の人間の表象を性的な視線ももって愛(め)で、消費する行為を後ろめたく(フェミ的にアウト)感じていたからだ。本書はその後ろめたさに真正面から斬り込み、さまざまな論者が「推す」ことの意義と危うさ、「推し」と、「推す」私たちの新たな可能性を詳らかにした。
必ずしも明快な言葉で整理できることばかりでないし(そこがいい)、私の推し分野にも一考が欲しかったが、それでも、「ハロプロが女の人生を救う」のか、韓国の「ガールクラッシュ」、ゲイのアイドルの考察などは、アイドル概念を覆された。「推し」は時代の産物でも、1人の人間でもある。「推し」と私のあり方や関係を問い続けたいと、思いを新たにした。(哲)
テレビ番組制作会社のリアリティ つくり手たちの声と放送の現在
林香里、四方由美、北出真紀恵 編
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- テレビ番組制作会社のリアリティ つくり手たちの声と放送の現在
- 林香里、四方由美、北出真紀恵 編
- 大月書店2600円
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本書は、元テレビ番組制作の現場に携わった研究者などによる研究成果である。番組制作は、放送局からほぼ、制作会社、さらにフリーランスに外注され、制作の現場では視聴率至上主義の蔓延からさまざまな要求に応え、時間も資金のゆとりもない状況で膨大な作業に追われ、さらには後進を育てる余裕もないなどといった、番組制作の「リアリティ」を明らかにしているという点で画期的だ。
やるせないのは、現場で働く女性の仕事と子育ての両立困難や、セクハラなどのジェンダー・ハラスメントへの対策は、法整備が進んでも、放送局や大規模制作会社の正社員を除くと非正規雇用が多い制作現場の女性にはメリットが届きにくいという指摘だ。
実は私自身も女性で非正規雇用。こうした非正規雇用へのしわ寄せなど制作現場の「リアリティ」は、日本の多くの企業にも共通する点があると改めて実感し、解決の糸口はあるのか?とくすぶる気持ちを覚えた。(タ)