女性兵士という難問 ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学
佐藤文香 著
|
女性兵士という難問 ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学
- 佐藤文香 著
- 慶應義塾大学出版会2400円
|
|
女性兵士は男女平等の象徴なのか-。軍事組織とジェンダーを研究する日本で数少ない研究者の著者が、近年の国際的な安全保障政策の変化や世界的な女性兵士の増加・活用を踏まえ、戦争・軍隊をジェンダーから批判的に問う、貴重かつ刺激的な書だ。
日本ではフェミニストの「反軍的立場」などから英語圏に比べて圧倒的に研究が少ない。それでいいのか?という問いから始まり、C.エンローの言う「軍隊に女性が参入するという現象をつぶさに観察する」重要性を土台に、女性兵士の評価、自衛隊や米軍の女性活用に論が進む。特に国連安保理決議1325号(2000年)以降の平和・安全保障分野におけるジェンダー主流化によって生まれた「ポストモダンな軍隊」が、男性性/女性性をどう操作・利用し、植民地的まなざしを有するかの分析は示唆に富む。ウクライナ侵攻を目の当たりにした今、その研究がどう進化・変化するのか。知りたいし、広く共有されてほしい。(孟)
THE GIRLS 性虐待を告発したアメリカ女子体操選手たちの証言
アビゲイル・ペスタ 著 牟礼晶子ほか 訳
|
- THE GIRLS 性虐待を告発したアメリカ女子体操選手たちの証言
- アビゲイル・ペスタ 著 牟礼晶子ほか 訳
- 大月書店2500円
|
|
「悲惨なものを見て傷つくならその時は見ない方がいい」との意見を耳にしたことがある。本書で語られる内容から目を背けたくなるのを何とか戒め、読み進めた。
本書は、米国の名門女子体操チームを中心に30年近く繰り返された、少女たちが受けた専属医師からの性被害、そして法廷での勇敢な告発の記録である。高い向上心を持ち、汗を流すことが喜びだった少女らの日々を奪った医師ナサールをはじめとする大人たち。被害を訴えても、米国体操連盟、オリンピック委員会、時には両親にすら信じてもらえず、命を絶つ少女も現れた。その取り返しのつかない現実に暗澹たる思いしかない。
だが中には「性被害者の傷を癒す場所を作りたい」と語る被害者も登場し、一筋の光を感じた。彼女たちの傷が癒えることは決してたやすくはないが、未来への一歩を踏み出そうとするかつての少女たちの行動が、これからの少女たちを救う道標となることを願ってやまない。(タ)
アメリカ 分断の淵をゆく 悩める大国・めげないアメリカ人
國枝すみれ 著
|
- アメリカ 分断の淵をゆく 悩める大国・めげないアメリカ人
- 國枝すみれ 著
- 毎日新聞出版1800円
|
|
新聞記者の著者はレンタカーを駆って一人現地に向かう。そこは共和党支持者の多い、保守的なアメリカだ。熱烈なトランプ支持者に会い、白人至上主義者も訪ねた。著者はできる限りいろいろな人の話を聞く。時には反論したくもなるが、こらえる。話を聞く目的が相手の心を知ることだからだ。
尊厳死法のある州、温暖化で沈みゆく先住民の島、黒人が殺される町で生きる人々。鎮痛剤系薬物依存者や性犯罪者、核実験の被ばく兵士たち。排外主義と難民狩りが激化する国境地域…。
先の大統領選でトランプは敗北したが、支持者は増えている。著者の親友は、白人の住民が9割で、うち7割が共和党に投票する田舎町で、BLMを支持する看板をもち交差点に立つ。「白人である私が交差点に立つのを見て、勇気づけられる人がいる」。だから、やめない。
著者が切り込む10章のテーマは重い。だが、筆者の率直で軽い筆致に導かれ、わきまえない、めげないアメリカ人に出会う。(ね)