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ふぇみんの書評

ソーシャルワーカーのための反「優生学講座」 「役立たず」の歴史に抗う福祉実践

藤井渉 著

    ソーシャルワーカーのための反「優生学講座」 「役立たず」の歴史に抗う福祉実践
  • 藤井渉 著
  • 現代書館2200円
津久井やまゆり園事件(2016年)の加害者が発した、「障害者は役立たず」との言説は社会に衝撃を与えた。しかし福祉現場では最近まで強制不妊手術を奨励していたし、日々の業務に追われる支援の中で「優生思想」が垣間見える。本書はやまゆり園事件と100年前に出版された『優生学講座』を手がかりに、「役立たず」の歴史を学ぶことで、支援者が「反優生学」的行動を取るための具体的な実践方法を紹介する。  数理統計学など科学が見出した「平均」「標準」がいかに国にとって「役立たず」を排除したのか、現代の福祉制度や概念(障害支援区分や障害年金の仕組み)がどう優生思想を端緒としているかは、私たちに巣くう優生思想の根深さを物語る。一方それに抗うのが当事者運動や民主化だった。本書が示す反優生思想の具体的実践の奥深さ。支援者だけでなく、この社会を生きる私たち全員に必要なものだ。(哲)

夏のヴィラ

ペク・スリン 著 カン・バンファ 訳

  • 夏のヴィラ
  • ペク・スリン 著 カン・バンファ 訳
  • 書肆侃侃房1700円
旅行で出会ったドイツ人夫婦に誘われ、夫婦の孫、共に非常勤講師の夫と、カンボジアのヴィラで数日を過ごすが、ある夜、夫とドイツ人夫婦に小さな諍いが起き…(「夏のヴィラ」)。これを含む8編からなる韓国の短編集。本国で多くの賞を受賞するのも頷けるほど、どれも味わいがある作品だ。  非正規雇用、女性の生きづらさ、格差、貧困などの社会問題が小説に立ち現れ、アジアとヨーロッパ、韓国と東南アジア、韓国と日本、妻・母役割と内なる自由な女性性、老人と若者、出会いと別れ、光と影…など、対照的なものが描かれ、ぐいぐい引き込まれる。物語は市井の人々の日常のエピソード。過去と現在を行き来し、心の移り変わりや、心の奥底で動く感情の描き方が細やかで、思春期や若い頃を思い出し、懐かしさと古傷が疼く。繊細で感性あふれる文章に酔うほど魅せられる。他人と結びつきたいと願い、一方で孤独をかみしめながら必死で生きる主人公たちがとても愛おしい。(ぱ)

自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実

布施祐仁 著

  • 自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実
  • 布施祐仁 著
  • 集英社940円
PKO協力法制定から30年。著者は、2009年から情報公開制度で海外派遣文書を入手し、実態を検証してきたジャーナリストだ。本書では、南スーダン、イラク、カンボジアなど、6つの派遣を検討。現場はまぎれもなく「戦地」だったが、活動の継続のために日本政府は武力紛争の再燃や発生を否定、矛盾のしわ寄せは現地の隊員に押し付けられたことが明らかになる。  PKOの現実と参加五原則との乖離を正すとすれば、憲法9条に触れざるをえないが、PKO元指揮官は、「憲法はPKOのために変えるものなのか、きちんと議論してほしい」と語る。また著者は、他国軍への重機操作・衛生兵の訓練支援、非武装の軍事監視要員派遣など、部隊派遣以外のあり方を紹介する。  自衛隊の海外派遣は米国の世界戦略に沿う形で進められ、自衛隊の本来任務から外れる。若年隊員の不足など、限られた人員の中で自衛隊をどうするのか、決めるのは私たちであり、政府には説明責任がある。いま岐路にある。(ね)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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