「名誉白人」の百年 南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ‐人種ポリティクス
山本めゆ 著
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「名誉白人」の百年 南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ‐人種ポリティクス
- 山本めゆ 著
- 新曜社2700円
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南アフリカのアパルトヘイトと言えば、ヨーロッパ系住民(「白人」)によるアフリカ系住民(「黒人」)の抑圧統治を想起するが、人口こそ少ないが日本人ほかアジア系移民はどう作用したのか。特に1980年代以降は南アにおける日本人の「名誉白人」待遇が喧伝されたが、人種的秩序にどのような影響を与えたのか―。本紙連載「彼女たちの引揚げ」でもおなじみの著者が、これまで「白人」「黒人」の枠で捉えられてきた南アフリカの人種主義に、先行研究分析やアパルトヘイトを経験した日本人や中華系住人の聞き取りを通してアジアの側面から光を当てた。
法的な根拠なく60年代にメディアが名付けただけの日本人の「名誉白人」待遇を、日本人が「自己成就的に現実化」し、中華系住民に影響を及ぼす様がインタビュー等から明らかになるが、人種的秩序の複雑な交差性とそこからはみ出る人間の営みが面白い。(瀚)
- 千代田区一番一号のラビリンス
- 森達也 著
- 現代書館2200円
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本書は、譲位前の天皇(現上皇)夫妻を主人公にした著者の“妄想小説”であるという。“カタシロ”という、穢れと関係するような不思議な物体も登場するファンタジー作品。だが、天皇の言葉や実際の出来事、ドキュメンタリーを制作する著者の実体験がベースになっている(森克也という登場人物もいる)せいか、リアルっぽい感じもおかしくて一気に読んだ。
今のメディアは皇室(表現)にさまざまな制約(タブー)を勝手に設け、一方で人権侵害にもあたる低級な皇室バッシングを繰り返す。そんないびつさに挑戦したと思える物語には、天皇夫妻が人間らしく生き、主体的にメッセージ
を発し、象徴を模索する姿が描かれる。
象徴とは何か、誰がその内容を決めるのか。先の戦争の天皇責任と同様、戦後の天皇制の在り方をずっと曖昧にしてきた日本(の人々)。問題作と宣伝されるが、天皇制に巣くう矛盾やひずみを議論できなくなっている社会こそ問題だと突き付けられる。(ん)
著者は1949年に沖縄県大宜味村に生まれ、県立高校教諭、琉球大学教授など教育職の傍ら、作家・詩人として活動。本書は92年に具志川市文学賞を受けた『椎の川』の続編小説である。
沖縄本島北部のヤンバルで暮らす一家の父・源太は伊江島で戦死、ハンセン病にかかった母・静江は村から療養施設に追われた。残された2人の子どもたち、太一と美代は祖父母のもとで育った。村人からも羨ましがられた仲の良い親子だったが、戦争や病に家族は壊された。ハンセン病への偏見や差別も色濃く残り、身辺では痛ましい事件も起きるが、2人はたくましく生きて、太一は牛飼い、美代は看護師になる夢を実現していく。
人々がお互いを思いやり、労りあう気持ちが語られるウチナーグチの美しさ。なによりヤンバルの自然がいきいきと描かれている。沖縄の海から昇った太陽の色や雲の色の変化がカラフルだ。花が雲のように美しく咲いている花雲(ハナグム)ヌ物語である。(公)