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ふぇみんの書評

何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から

斉加尚代 著

    何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から
  • 斉加尚代 著
  • 集英社940円
大阪毎日放送で「映像」シリーズのディレクターをする著者(映画『教育と愛国』監督、本紙2022年5月5日号)が、渾身の4作品を中心に制作現場を取り巻く状況や社会のありようを語る。4作品とは、沖縄の地方紙の記者と基地反対運動を撮った2作と、教育をテーマにした作品、そして最もページを割くのが『バッシング―その発信源の背後に何が』だ。  『バッシング』は、SNSを通じて学者や弁護士、著者自身へも激しくバッシングする者に迫る。気に入らない相手への大量の発信=攻撃は萎縮させるのが狙いだ。背後に何がある/いるのか。ネット空間でどうデマが拡散されるのか。  悩み、孤独と闘い、対立する当事者双方に取材をしていく著者は、「ドキュメンタリーは生きもののようなもの」で、インタビューこそドキュメンタリーの肝と語り、くじけそうになるけれど、強力なバネのようにまた飛び出していく。メディア批判であり、メディアが政治圧力に屈していく姿も著す。(三)

プリズン・サークル

坂上香 著

  • プリズン・サークル
  • 坂上香 著
  • 岩波書店2000円
2008年に開設された官民混合運営型刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」に著者が入り、そこで行われるTC(回復共同体:コミュニティの力を使って問題から回復する)プログラムに参加する受刑者を2年にわたり撮影したドキュメンタリー『プリズン・サークル』(本紙20年1月15日号)は大きな反響を呼んだ。本書は映画には入れられなかった受刑者の様子や著者の葛藤、主人公らの細やかな心情変化やその後などが描かれる。  TCでは仲間の力を借りて「感情の筋肉」を鍛えて自分の抑えていた感情や経験(大半に被虐待やいじめ経験あり)を掘り起こし、暴力を「学び落とし」、自らの罪に向き合う。TCを通して自分を語れる「サンクチュアリ」が生まれる瞬間やそこで受刑者が変化する様子、彼らの出所後の様子からは、受刑者を「罰する」日本の収監の問題のほか、この社会に「サンクチュアリ」があるのかを痛烈に問う。刑務所と私たちは繋がっていると、著者が自身の存在をかけて証明した。(哲)

10年目の手記 震災体験を書く、よむ、編みなおす

瀬尾夏美、高森順子、佐藤李青ほか 著

  • 10年目の手記 震災体験を書く、よむ、編みなおす
  • 瀬尾夏美、高森順子、佐藤李青ほか 著
  • 生きのびるブックス1900円
2020年、東日本大震災の経験にまつわる「10年目の手記」の募集が始まった。当時子どもだった人、直接には被災しなかった人からの応募もあった。本書には、手記をめぐる瀬尾と高森のエッセイとプロジェクトの取り組みの報告、そして13本の手記が載る。  東京で大学生の時に震災に遭った書き手は、自ら「東北の伴走者」として、困窮の中で支援を続けた。当時高校2年生で浪江町に暮らしていた書き手は、福島や原発事故の問題に「語りづらさ」がつきまとうとし、「忘れられない、忘れさせたくない」出来事を残しておきたかったと記す。女川町出身の書き手は、大震災で大親友を、さらに関連死ともいえる状況で友達や親・姉妹を次々と亡くし、彼女たちが生きていた証を残したいと書く。  手記を通じ、当事者(被災者)と非当事者(非被災者)の役回りを解除できないか(したい)と瀬尾は書き、手記というメディアに期待する。10年たった今だからこそ、可能な事なのかもしれない。(き)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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